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パナソニックはセルロースファイバーをプラスチックと組み合わせた新素材を、いち早く実用化した。石油の使用量を削減でき、リサイクルしても強度が落ちにくい。独自のセルロースファイバー製法によって、剛性と耐衝撃性という付加価値を確保。適用したビール用カップは、剛性を生かした飲み口のキレが売りだ。セルロースの含有量を70%に高めた材料も開発し、バイオマス比率を90%に高め、さらには生分解性の追求も始めた。同社材料・デバイス技術部成膜技術課主幹技師の浜辺 理史氏に、セルロースファイバー材料の開発と応用の状況について聞いた。(聞き手は木崎健太郎、石橋拓馬)

パナソニック ホールディングス 材料・デバイス技術部成膜技術課主幹技師の浜辺 理史氏 (写真:加藤 康)
パナソニック ホールディングス 材料・デバイス技術部成膜技術課主幹技師の浜辺 理史氏 (写真:加藤 康)
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 セルロースファイバーを使った我々の材料「kinari」の1つとして、最近(2022年3月)バイオマス材料の濃度が90%のものを発表しました。セルロースの濃度は55%ですが、組み合わせるプラスチック(ポリエチレン:PE)もバイオマスにした材料です。製造に必要な石油の量を大きく減らせました。

 その1年前の2021年2月に、セルロース濃度が70%の材料(30%分のプラスチックはポリプロピレン:PP)を発表しており、その頃から問い合わせが大変増えて、非常にありがたく思っています。

耐衝撃性に優れる特徴を発見

 セルロースファイバーに取り組み始めた当初、環境省によるセルロースナノファイバー(CNF)の開発プロジェクトの1つに参画しました。もともとはセルロースの濃度を高める今のような方向ではなく、低い濃度でも物性を高めようという取り組みでした。ただ、私の中で石油をなんとか減らしたいという思いもあり、濃度を高める検討も並行して進めていました。

* プロジェクト名称は「平成27年度セルロースナノファイバー製品製造工程の低炭素化対策の立案事業委託業務」。

 製品への応用は、2018年に当社のスティッククリーナー(掃除機)の本体部分への採用が最初です。さらに2019年にはPPに濃度55%のセルロースを入れた材料を使って、アサヒビールさんのカップを造らせてもらいました。

 環境省のCNFのプロジェクトで、我々が挑んだのは製造プロセスで生じる二酸化炭素(CO2)の削減です。それまではCNFの原料であるパルプを水の中でほぐして、乾燥させて樹脂に混ぜる方法でした。しかし、乾燥させる際にエネルギーを多く使ってしまいます。これをどうにか減らしたいと、溶融した樹脂中でほぐすプロセスの開発に取り組みました。水を使わず乾燥させる必要もないプロセスで、「全乾式プロセス」と呼んでいます。

 このプロセスで造ったセルロースファイバーは、繊維の形状に少し特徴が出ます。水の中でほぐすと普通は全体的にけば立っていくようなほぐれ方になるのに対して、プラスチック内でほぐすと繊維の太さをある程度保ちつつ、先端部分がばらける感じになるのに気が付きました。

 太い部分によって、プラスチックを補強して硬くする効果、すなわち剛性を高める効果が得られます。それに対して先端の細い部分では衝撃に対しての強さを改善する効果があると考えられます。我々の材料をセルロースナノファイバーとは言わずにセルロースファイバーと呼んでいるのは、ナノ(nm級の太さ)になっているのは先端部分で、主要部分はミクロン(μm)サイズの径であるためです。

 繊維強化プラスチックでは一般に、強い衝撃が加わると、繊維の端の部分に「クレーズ」と呼ぶ微細なひびが入って、ひびがつながっていくと割れてしまいます。このクレーズの大きさは、繊維の径の太さに比例するという論文があり、繊維の先端がほぐれて細かくなっているとクレーズを小さく抑えられる結果、衝撃強度(面衝撃性)が上がるようです。

 当時は、そういったメカニズムはまだ分からず、条件をいろいろ振りながら実験していく中で見いだした、衝撃に強いという特徴に着目して進めたのがスティッククリーナーへの応用です。スティッククリーナーは立てて使いますが、倒れる場合を想定して数百回倒す独自の試験を実施しますので、これに耐えられなければいけません。

 当時、セルロース材料を使った家電は世の中にほぼありませんでした。現在ほど脱石油、脱プラスチックと言われてはいなかったですが、石油の使用を少しでも減らしたいという思いが材料開発の我々にも、事業部で製品を開発していたメンバーにもありました。ただ、従来のプラスチック(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン:ABS)に比べて何か“売り”がなくてはなりません。そこで約10%の軽量化を達成でき、かつ従来品と同等の耐衝撃性をクリアした、セルロースファイバーを使ったkinariの採用に至ったわけです。