ドイツigus(イグス)が全ての部品をプラスチックで造った自転車を開発している。2022年末までに最初のモデルを完成させて販売する。石油由来のプラスチックで造った製品と、海洋プラスチックゴミなどの再生材から造った製品を用意する。さびない点や、使用後は丸ごとリサイクルできる環境負荷の低さを訴求力に拡販する。世界最大級の産業技術の国際展示会「Hannover Messe 2022」(2022年5月30~6月2日、ドイツ・ハノーバー)で開発中のモデルを披露した。
この自転車はプラスチックを使った自転車を手掛けるオランダのスタートアップ企業MTRL(マテリアル)との共同開発品で、同社が販売する予定。MTRL創業者は、祖父が営む自転車屋で多くの部品が廃棄されているのを見て、再生可能な自転車を造ろうと起業したという。
MTRLは一部の部品をプラスチックで代替した自転車を2015年以降に約400台販売しているものの、耐久性が必要とされる部品は金属製だった。そこでigusが製造する高機能プラスチックを組み合わせ、全ての部品を樹脂化するプロジェクトを2020年ごろに開始した。
igusは「モーション・プラスチック」の名で産業機械などの可動部で使えるベアリングやケーブルを販売している。軽量で耐久性があり、潤滑油を差す必要がないのが特徴だ。今回は車輪やペダルのベアリング、ペダルをこいだ力をチェーンに伝えるクランク、ギアなど、負荷がかかる部品にこのプラスチックを使用する。
安全性と小型化の両立、一筋縄ではいかず
ただし、モーション・プラスチックを手掛けるigusでも自転車の部品を樹脂化するのは容易ではないようだ。2022年5月時点ではまだ100%樹脂化はできていない。年末の発売までに完全に樹脂化できるよう開発を急いでいるという。Igusの開発担当者は「人がどんな風に乗っても安全に動く必要がある一方で、自転車として使いやすいように部品を小型にしなければならない」と苦労を語る。
例えば、クランクの形状は高負荷に耐えられるような特殊な形状にした。ギアは人が乗っても安定して動くように通常よりも大きくしつつ、自転車のフレーム内に収まるよう工夫したという。
自転車にはigusの造るセンサーを内蔵したスマート・プラスチックを搭載して、自転車の状態や残りの走行可能距離を予測できるようにする。長く使えるという点をプラスチック製に抵抗感のある利用者に分かってもらう狙いがある。予測内容はスマートフォンから確認できる。機械要素部品の寿命予測やメンテナンス向けに同社が販売する製品を応用した*。