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 2022年3月からの急激な円安によって、日本ではAmazon Web Services(AWS)をはじめとするドルベース料金のクラウドサービスのコストが増大している。AWSを利用している、ある大手製造業のAI製品事業の責任者は次のように話す。

 「現状では影響は限定的だが、AWSのコストが上がったと認識している。これまでAWSの料金単価(ドルベース)は右肩下がりで、しかも緩やかな円高基調の恩恵を受けていたが、近年の半導体不足やエネルギー価格の高騰なども考えると、これからはコストが上がっていくリスクを考えなければならない。コスト削減の取り組みを強化する必要性を感じている」。

 では、AWSをはじめとするクラウドのコストを削減するにはどうしたらよいのか。クラウドを利用する企業のエンジニアやコスト削減に詳しいベンダーのエンジニアに取材し、効果の大きい削減策を聞いたところ、3つのポイントが浮かび上がった。それは(1)仮想マシンの割引オプションを使う、(2)コンテナでサーバーリソースを余さず使う、(3)オブジェクトストレージのクラスを使い分ける、である。以下で順に解説する。

(1)仮想マシンの割引オプションを使う

 一般的なクラウドのユーザーで料金の大部分を占めるのは仮想マシンだ。そのため、まずは仮想マシンがコスト削減のターゲットになる。

 基本は、開発環境に放置されているような使っていない仮想マシンを洗い出し削除することだ。そもそも使っていない仮想マシンが存続しないように、台帳を作って仮想マシンごとの管理者を明確にしたり、毎日深夜になると原則として開発環境の全仮想マシンを消去したりするといったルールを設けるのも有効である。

 これらの無駄取りをしたうえで検討したいのが、予約購入による割引オプションだ。AWSの場合、「RI(リザーブドインスタンス)」と「Savings Plans」という2種の割引オプションを提供している。どちらも、ユーザーが1年間または3年間の利用をコミット(約束)する代わりに割引を受けられる仕組みだ。支払いは月ごとだけでなく、一括または部分的な前払いが可能である。前払いすれば、当然だが、その後の為替変動の影響を排除できる。

 母親向け情報サービス「ママリ」を運営するコネヒトの永井勝一郎テクノロジー推進部部長は、同社における割引オプションの利用状況について「社内で利用している仮想マシンとデータベースのうち、6~7割はRIやSavings Plansを導入済みだ」と語る。

 JCBもAWSのユーザーであり、RIやSavings Plansを導入している。片岡亮介システム本部デジタルソリューション開発部部長は「割引になるだけでなく、前払いにより為替レート変動の影響を受けずに済み、費用の見通しが立ちやすい点でも価値が高い」という。

 RIは仮想マシンのタイプや台数を指定し、Savings Plansは「1時間、10ドル」のように時間当たりの利用金額を指定するといった点で異なる。AWSのプレミアコンサルティングパートナーの1社であるアイレットの後藤和貴執行役員によると、「これから割引オプションの適用を考えるのであれば基本的にRIよりもSavings Plansを推奨する」と話す。RIの利点としては、アベイラビリティーゾーン(大容量ネットワークで結ばれた比較的近接のデータセンター群)を指定しておくと、リソースが予約され優先的に仮想マシンを起動できる保証が付くことが挙げられる。ただ2018年に東京リージョン(広域データセンター群)に4つめのアベイラビリティーゾーンが増設されてからは、同リージョンのリソースは余裕のある状態が続いているという。

 Savings Plansは、仮想マシンのタイプ変更などの柔軟性が高いのに加え、仮想マシン以外のサービスにも適用対象を広げられる。Savings Plansは「EC2 Instance Savings Plans」「Compute Savings Plans」「Amazon SageMaker Savings Plans」という3つのプランで構成されており、このうちCompute Savings Plansは仮想マシンの「Amazon EC2」に加えて、イベント駆動コード実行サービス「AWS Lambda」、コンテナ基盤のサーバーレスオプション「AWS Fargate」も対象になる。「Amazon SageMaker Savings Plans」は名称の通り、AI開発・実行環境「Amazon SageMaker」向けの割引オプションである。

「ママリ」のシステムにおけるリクエスト数、コンテナの平均CPU使用率、コンテナ数の推移の例
「ママリ」のシステムにおけるリクエスト数、コンテナの平均CPU使用率、コンテナ数の推移の例
(画像出所:コネヒト)
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