経済産業省、東京証券取引所、情報処理推進機構(IPA) が2022年6月に発表した「DX銘柄2022」。その選定企業は日本における DX(デジタルトランスフォーメーション) の先進企業と位置づけられ、大半がDXの取り組みを全社に広げている。DXの全社展開では全社ビジョンを浸透させたうえで、業務の現場を組織的に支援することが不可欠だ。DX銘柄2022の選定企業はDXの全社展開において、どのような組織的支援をしているのか。特徴的な事例を取り上げる。
中外製薬は2030年までの成長戦略である「TOP I 2030」を定め、その中でDXをキードライバーと位置付けている。DXは2022年1月に設立した「デジタルトランスフォーメーションユニット(DXユニット)」と呼ぶ組織が中心となって取り組む。DXユニットは情報システム部門に当たる「ITソリューション部」と、2019年10月に設立した「デジタル戦略推進部」で構成している。
同社のDXで特徴的なのは、DXを通じて目指す姿である「ビジョン」を、全社レベルだけでなく事業本部(およびそれに準ずるユニット)ごとに策定している点だ。一般にDXは抽象的な概念であり、全社レベルのビジョンを示しても、社員一人ひとりが自分のこととして捉えにくい面がある。このギャップを埋めるのが、事業本部ごとのビジョンだ。
まず2020年にデジタル戦略推進部が主導して、同社が2030年にDXで目指す姿を1枚のスライドとして描き、中期経営戦略の「CHUGAI DIGITALVISION 2030」に収録して発表した。これが全社ビジョンだ。
この全社ビジョンを基に、事業本部やユニットごとの「DXリーダー」が中心となり自部門のビジョンを策定した。事業本部は複数の事業部で構成しているが、DXリーダーは1本部に1人だ。志済聡子上席執行役員デジタルトランスフォーメーションユニット長は「DXへの意識が高い(部長クラスの)人材を1人選んだ」と語る。事業部ごとにDXリーダーを選んで互いに調整しながらDXを進めるという合議制にしなかったのは、リーダーを1人に絞ることで役割を明確化し、全社戦略に沿ってDXを実行しやすくするためだという。