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経済産業省、東京証券取引所、情報処理推進機構(IPA) が2022年6月に発表した「DX銘柄2022」。その選定企業は日本における DX(デジタルトランスフォーメーション) の先進企業と位置づけられ、大半がDXの取り組みを全社に広げている。DXの全社展開では全社ビジョンを浸透させたうえで、業務の現場を組織的に支援することが不可欠だ。DX銘柄2022の選定企業はDXの全社展開において、どのような組織的支援をしているのか。特徴的な事例を取り上げる。

 日本瓦斯は「ニチガスツイン on DL」と呼ぶ独自のデータ基盤の一部機能をAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)経由で競合のLPガス事業者などに開放し、「プラットフォーマー」となる大胆なDX(デジタルトランスフォーメーション)の目標を掲げている。

 ニチガスツインはデジタルツインの一種で、ガスボンベ一つひとつのガス残量や所在などの状態をデータとして収集し、仮想空間として再現するものだ。各家庭のガス使用状況を、ガスボンベに取り付けたIoT機器の「スペース蛍」で収集。さらに、ガスボンベに貼ったバーコードを配送拠点にあるカメラで読み取り、各ボンベの位置も把握する。スペース蛍ではガスボンベの開閉栓も可能だ。

 ニチガスツインに集約したこれらのデータやスペース蛍を活用することで、様々な業務変革が可能になる。日本瓦斯はガスボンベの検針や開閉栓をリモートに切り替えたり、AIによってガスボンベの配送計画をきめ細かく立てたりといった変革を実現。既に検針、配送、開閉栓それぞれで数億円ずつのコストを削減したという。

「ニチガスツイン on DL」の画面
「ニチガスツイン on DL」の画面
(出所:日本瓦斯)
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 こうしたDXの効果を「業界全体に広げる」と、日本瓦斯の和田真治取締役会長執行役員はプラットフォーマーを目指す意義を話す。「扱うデータは指数関数的に増えており、各社が個別にプラットフォームをつくるとなるとコストも時間もかかる。スペース蛍とニチガスツインを他社にも開放して業界全体でメリットを享受したい」(和田会長)。他社から利用料を得ることでニチガスツインをさらに発展させ、新事業に生かす狙いもある。

 競合他社は日本瓦斯のプラットフォームを利用することにより、自社のガスボンベの使用状況を把握したり、取得したデータをAIで解析してボンベの配送計画を作成したりできる。半面、自社のデータを日本瓦斯にのぞき見られるのではないかという懸念があるだろう。この点について和田会長は「当社が他社のデータをのぞき見られないようにする機能を実装している」と話す。

 プラットフォーマーとしての実績は着々と積んでいる。最初に他のLPガス会社がスペース蛍およびニチガスツインの利用を始めたのは2021年初めごろだ。2022年8月時点で20社以上が導入したという。リモート検針機能だけといった限定的な利用を希望するガス会社もあり、そうしたニーズにも応えているという。