味の素はASV(Ajinomoto Group Shared Value)というビジョンを掲げDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。ビジョンを浸透させる人材育成の一環として初級、中級、上級からなる研修コースを用意した。同社の香田隆之執行役専務Chief Digital Officer(CDO)兼Chief Transformation Officer(CXO)は「2020年度から2022年度にかけて国内の73.7%の従業員が初級コースを受講した。多くの従業員が(DXに)興味を持っている」と話す。
同社はDXをDX1.0からDX4.0の4段階に分けて取り組む。「全社オペレーション変革」と定義したDX1.0で自社グループ内のオペレーション改革に取り組み、現在DX2.0の組織を横断した「エコシステム変革」に取り組んでいる最中だ。
DX3.0は消費者まで含めた変革だ。「ヘルスケアイノベーション」「フード&ウエルネスイノベーション」「ICTイノベーション」「グリーンイノベーション」の4領域をイノベーション領域に定め、2030年を超える未来からバックキャストして「事業モデル変革」に取り組むとしている。DX3.0の取り組みを社会まで拡大するのがDX4.0で、2030年までに食の分野で起こり得る社会課題の解決を目指す。
データ基盤の構築に注力
味の素は現在、主にDX2.0に取り組んでいる。組織を越えた取り組みとして特徴的なのがSCM(サプライチェーンマネジメント)の最適化だ。ハウス食品グループやカゴメなど食品4社と共同出資会社のF-LINEを設立し、各社の物流機能を再編した。共同のSCMプラットフォームとしてF-LINEを活用する考えだ。
DXを推進するうえで、データを統合して管理するデータレイクが欠かせない。味の素がBtoBの事業で扱うアミノ酸などの商品はグローバルで一括管理できる一方、主にBtoCの事業で扱う調味料などの商品は世界中でローカライズされている。つまり国ごとに扱う商品が違うため、グループ内でデータを一括管理するのが難しいという。
それでも味の素は、DX2.0においてグループ内の組織の垣根を越えてデータを活用する基盤である「DMP(Data Management Platform)」の整備に取り組んでいる。香田CDO兼CXOは「社内にはシステムがバラバラに存在していて、データをうまく利活用するのもその都度(データを収集する必要があって)大変だ。私は今年度の取り組みの中でデータ基盤の構築が一番の目玉だと思っている」と語る。