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SID Display Week 2022では、発光色に優れる量子ドットと印刷技術で造れる有機ELを組み合わせたディスプレーをマイクロLEDのフォトリソグラフィーで製造する究極の次世代技術も登場した。広色域、高輝度、低コスト、それでいて超高精細というほぼ完全無欠のディスプレーを実現できる。開発はシャープと中国BOE Technology Group(京東方科技集団)がしのぎを削る。

 RGB塗り分け型有機EL(OLED)ディスプレーをFMM(ファインメタルマスク)でもなくインクジェット印刷法でもなく、フォトリソグラフィーを使って実現する――。OLEDディスプレーのメーカーにとって大事件に近いこの技術革新も、少し俯瞰(ふかん)してみるともう1段階の“変身”が可能なことに気づく。量子ドット(QD)だ。

もう1段階の“変身”で完全無欠に

 OLEDの素子構造の発光層にQDを利用した「QD-EL」ディスプレーをインクジェット印刷法ではなく、フォトリソグラフィーで作製すれば、(A)フォトリソグラフィーの高精細さ、(B)OLEDの素子形成の低コスト性、そして(C)QDの色純度や信頼性の期待度の高さ、を兼ね備えた欠点がほとんどないディスプレー技術になる可能性が高いのである。

 既にこの点に気が付き、開発を進めてきたメーカーが少なくとも2社いる。中国BOE Technology Group(京東方科技集団)とシャープだ。両社は、2年ほど前にはこのことに着目。BOEは2020年6月に試作例を論文発表している1)。BOEは中~大型ディスプレーではインクジェット印刷法でQD-EL、AR/VR向け高精細ディスプレーではフォトリソグラフィーでQD-ELと、QD-ELの製造手法をディスプレーの寸法や必要な精細度によって使い分ける方針だ注7)

注7)ちなみに、BOEが採用したフォトリソグラフィーはSBS(サイド・バイ・サイド)ではなく、最初にフォトレジストを積層してパターニングした後、フォトレジストがない部分にOLEDを形成する手法。SBSが“ポジ”だとすると“ネガ”的な技術といえ、BOE自身も「negative photoresist and sacrificial layer assisted patterning(PR-SLAP)法」と呼ぶ。

 もっともBOEの試作品はフルカラーとはいえパッシブ駆動で精細度が500ppiとポテンシャルの高さは示し切れていない。

シャープは広色域と超高精細を実証

 一方、シャープは2021年のDisplay WeekでフォトリソグラフィーによるRGB塗り分けのアクティブ駆動のQD-ELディスプレーを世界で初めて発表(図10)。色域はBT.2020で86%と高い注8)。精細度は176ppiだったが、今回のDisplay Weekでは、パッシブ駆動品ながら単色で6048ppi、フルカラーでも3994ppiと、この手法で超高精細が可能であることを実証した。ただし、フォトリソグラフィーの具体的手法は明らかにしていない。実用化時期については「現時点では未定だが、できるだけ早期実用化を目指して検討していきたい」(シャープ)とする。

図10 シャープは3技術の良いとこ取りで超高精細かつ超広色域、低コストを実現へ
図10 シャープは3技術の良いとこ取りで超高精細かつ超広色域、低コストを実現へ
シャープの今回のDisplay Week 2022での主な発表内容。同社が開発したQD-ELディスプレーをフォトリソグラフィーで作製する技術はマイクロLED、OLED、そしてQDの3つの技術の“良いとこ取り”になっている(a)。フォトリソグラフィーで作製したアクティブマトリクス型QD-ELディスプレーの開発は同社が世界初(b)。一方で、パッシブ駆動ながら超高精細を実現したディスプレー技術も発表した(c~d)。(d)の寸法は3.82mm角で画素数は600×RGB×600画素。画素ピッチは6.36µmで精細度は3994ppi。輝度は1万nits以上と高い。(図:(a)は日経クロステック、(b~d)はシャープ)
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注8)シャープは今回、2021年に発表したアクティブ駆動のディスプレーの更新版を発表。色域はBT.2020で88%と若干であるが改善した。