ESG(環境・社会・企業統治)に対する関心が世界的に高まっている。特に投資分野ではESGに配慮する企業を重視するESG投資も盛んだ。ESGへの取り組みを評価するための基準作りも進んでおり、国を越えて企業の取り組みを比較できるようになれば企業にとって関連データの収集・管理や活用は重要なテーマとなる。先進事例から対応のポイントを学ぶ。
英IFRS財団が2022年3月31日に公開した非財務情報の開示基準の草案の中でも、中心的に扱われているのが気候関連の開示基準だ。とりわけ二酸化炭素(CO2)排出量は、各国が温暖化ガスの排出量と吸収量を均衡させる「カーボンニュートラル」に向けたシナリオを表明するなど関心が高い。
日立製作所はこの「非財務情報開示の1丁目1番地」とも言えるCO2排出量可視化と改善に、正面から挑んでいる。舞台は鉄道の運行制御システムや製鉄所の生産システム、上下水道設備の運転・維持管理システムといった、社会インフラシステムの生産を担う「大みか事業所」(茨城県日立市)だ。日立は大みか事業所を「環境モデル工場」と位置付け、カーボンニュートラル達成に向けたサプライチェーンのCO2排出量可視化や削減に取り組む。
温暖化ガス排出量については、企業自身の直接的な化石燃料や天然ガスなどの使用による「スコープ1」、電気・熱・蒸気の使用に伴う間接的な排出「スコープ2」に加えて、取り扱う製品の輸送や製造、廃棄など事業活動に関連する他社の排出を含めたサプライチェーン全体の排出量「スコープ3」についても管理・開示する重要性への認識が国際的に強まっている。日立は大みか事業所で、それぞれを収集・管理する仕組みを構築し、実証を進めている。
スコープ | CO2を算出する対象範囲 |
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スコープ1 | 企業自身の直接的な化石燃料や天然ガスなどの使用による排出量 |
スコープ2 | 電気・熱・蒸気の使用に伴う間接的な排出量 |
スコープ3 | 取り扱う製品の輸送や製造、廃棄など事業活動に関連する他社の排出を含めたサプライチェーン全体の排出量 |
まずスコープ1については都市ガス供給会社の検針票や領収書に記載のガス使用量を基に算出する。算出には一般的に各供給会社が公開している係数を用いる。