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ESG(環境・社会・企業統治)に対する関心が世界的に高まっている。特に投資分野ではESGに配慮する企業を重視するESG投資も盛んだ。ESGへの取り組みを評価するための基準作りも進んでおり、国を越えて企業の取り組みを比較できるようになれば企業にとって関連データの収集・管理や活用は重要なテーマとなる。先進事例から対応のポイントを学ぶ。

 多くの人がESG経営やSDGs(持続可能な開発目標)推進の必要性を漠然とは認識するようになった。だが経営指標の改善も求める経営層や株主に、明確にESG関連の取り組みの価値を示すのは難しい。

 日清食品ホールディングス(HD)は、認証パーム油の使用率向上や社員の多様化といった非財務指標を改善する取り組みが企業価値をどの程度向上させるか数値化する取り組みを進めている。

 「投資家や金融機関との面談では必ずこの話題が出る。注目度は非常に高いと感じている」。日清食品HDの斉藤圭経営企画部次長が手応えを語るのは、ESG関連指標が中長期で企業価値に与える影響を数値的に可視化する取り組みだ。2022年3月に二酸化炭素(CO2)排出量の削減や残業時間の削減といった274のESG指標が1株当たり純利益(EPS)や株価収益率(PER)、株価純資産倍率(PBR)にどの程度影響を与えるか、統計学的に分析した。

俯瞰型分析のイメージ
俯瞰型分析のイメージ
(出所:日清食品ホールディングスの資料を基に日経クロステック作成)
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価値関連性分析のイメージ
価値関連性分析のイメージ
(出所:日清食品ホールディングスの資料を基に日経クロステック作成)
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 用いたのは「俯瞰(ふかん)型分析」と「価値関連性分析」という2つの分析手法。俯瞰型分析は早稲田大学大学院会計研究科の柳良平客員教授が提唱する「柳モデル」を活用し、アビームコンサルティングが分析を担当した。274の指標の5~15年分の推移から、それぞれの指標がPBR1倍以上になるのにどれくらい貢献しているかを分析したところ、79の指標でPBRとの間に望ましい相関が得られた。

 例えば「CO2排出量を1%削減すると8年後にPBRが1%改善する」、「女性の育児短時間勤務を1%増やすと、1年後にPBRが0.7%改善する」、「研究開発費を1%増やすと、7年後にPBRが1.4%改善する」といった企業価値へのインパクト(相関)の説明が可能になるという。

 価値関連性分析はアビームコンサルティングの協力を得て、日清食品HDが独自に実施した。それぞれのESG関連指標同士の相関関係を統計的に分析して相関が見られた指標をつなぐことで、EPSやPERの改善につながるストーリーとして表現する。

ESG指標改善による企業価値向上をストーリーで表現する
ESG指標改善による企業価値向上をストーリーで表現する
(出所:日清食品ホールディングス)
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 例えば「エネルギー投入量」と「CO2排出量」、「RSPO認証パーム油使用率」などの指標は「オウンドメディアでの発信機会増加」、「地域社会や消費者の信頼度」、「売上高」といった指標の改善につながり、EPSやPERの改善に寄与するといったことを示せるという。斉藤次長は効果について「一見コストがかかる取り組みも、リターンを定量的に説明できるようになった」と話す。