全4356文字
PR

 電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの普及によって需要が高まっている「パワー半導体」。名前は聞いたことがあるが、具体的な用途や、その他の半導体との違いが分からない人も多いのではないだろうか。知っておきたい事項をまとめた。

Q1:パワー半導体って何?
Q2:どんな製品で使われているの?
Q3:なぜ今、注目が集まっているの?
Q4:デバイスにはどんな種類があるの?
Q5:シリコンパワー半導体にはどんな課題があるの?
Q6:次世代パワー半導体って何?
Q7:シリコンパワー半導体はなくなるの?
Q8:どんなメーカーが開発しているの?
Q9:SiCとGaNはすみ分けられるの?
Q10:SiCやGaNの次ってあるの?

Q1:パワー半導体って何?

 パワー半導体素子(以下、パワー半導体)は電源のスイッチのように、大きな電流をオン/オフできる半導体デバイスのこと(図1)。一般に半導体デバイスというとIC(集積回路)を思い浮かべるが、そちらは主に演算や記憶が目的であり、電流のオン/オフを目的としていない。一方で、パワー半導体は、大電流のスイッチングに特化している。パワー半導体では、大きな電圧に耐え、大きな電流を流せるようにする必要があるため、それに特化した構造を持つ。

図1 パワー半導体の役割は電流のオン/オフ
[画像のクリックで拡大表示]
図1 パワー半導体の役割は電流のオン/オフ
パワー半導体はスイッチであり、制御信号に応じて電流オン/オフを行う。パワー半導体とインダクタンスやコンデンサー、抵抗を組み合わせることで、交流と直流を変換したり、昇圧や降圧をしたり、周波数変換をすることができる。一方、IC(集積回路)は、論理的な回路を集積しており、0と1に当たる信号を処理して、演算や記憶する機能を持つ(出所:日経クロステック)

 パワー半導体のスイッチング機能は、主に電力変換で使われる。電力変換とは、交流を直流、直流を交流にする変換や、電圧をより高い電圧にする昇圧および低い電圧にする降圧、交流の周波数を変える周波数変換などを指す。インダクタンスや抵抗、コンデンサーなどと組み合わせることで、こうした機能を実現できる。

Q2:どんな製品で使われているの?

 身近な家電製品から電動車、データセンター、電力系統など、電力変換が必要となる幅広い場所で使われている。身近なものとしてはスマートフォンの充電器がある。家庭用の電源は、50Hzまたは60Hzの100V交流電源である。充電器では、これを例えば5Vの直流に変換している。この交流から直流、電圧の降圧にパワー半導体が使われている。

 パワー半導体は、今後、さらなる成長が期待される自然エネルギーの利活用においても必需品である。例えば、太陽光発電の発電電力は直流のため、送電網に送る際に交流変換する必要があり、パワー半導体が欠かせない。EV用の急速充電器や、EV駆動用インバーターなどにも多く使われている。

Q3:なぜ今、注目が集まっているの?

 パワー半導体の市場規模は今後、右肩上がりで拡大するとみられる(図2)。英Infoma Techの先端技術調査部門Omdiaの調査によれば、2021年の予測値が182億米ドル(2兆4542億円、1米ドル=134.85円換算)に対し、4年後の2025年には243億米ドル(3兆2768億円)まで膨らむ。

図2 9%のCAGRで市場成長
[画像のクリックで拡大表示]
図2 9%のCAGRで市場成長
Omdiaが2022年1月に作成したパワー半導体の市場規模推移を示した。2021年以降は予測値。市場拡大の要因は、再生可能エネルギーやEVの伸長による。このデータを基にした、2019年から2027年までのCAGR(年平均成長率)は9.0%である(出所:Omdia)

 市場拡大の要因の1つは、自動車のEVシフトである。電池における電力の入出力、モーターの駆動などにパワー半導体は多用される。さらに、投資が今後も拡大するデータセンター、太陽光発電や風力発電、定置用蓄電池などでも、パワー半導体が大量に必要になる。こういった需要を見越して、各パワー半導体メーカーは設備投資を増やし、開発を急いでいる。

Q4:デバイスにはどんな種類があるの?

 主なパワー半導体の種類は、「ダイオード」「バイポーラトランジスタ」「サイリスタ」「パワーMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)」「IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)」である。現在、市場規模が最大なのはIGBTで、その次がパワーMOSFETだ。現時点ではシリコン(Si)ベースのデバイスが大半を占める。

バイポーラトランジスタ=p型とn型の半導体が、どちらか片方をもう片方が挟むように接合されたトランジスタ。大電流のスイッチングでよく使われる。
サイリスタ=ゲート電流をトリガーに、アノードからカソードへ電流を流すデバイス。npn型とpnp型のバイポーラトランジスタについて、片方のベースとコレクターをもう片方のコレクターとベースに接続した回路と等価である。ゲート電流を切っても、状態が維持される。

 パワーMOSFETはスイッチング性能が高く、高周波領域でよく使われている(図3)。ただし、バイポーラトランジスタほどの耐圧を持たないため、大電圧領域の電力変換では不向きだ。そこで、パワーMOSFETの耐圧の課題を克服したIGBTが開発された。IGBTは、パワーMOSFETを組み込んだバイポーラトランジスタである。スイッチング性能はパワーMOSFETには及ばないものの高く、耐圧性も高い。

[画像のクリックで拡大表示]
図3 パワー半導体はウエハーの厚み方向に大電流を流す
[画像のクリックで拡大表示]
図3 パワー半導体はウエハーの厚み方向に大電流を流す
パワー半導体として一般的な、パワーMOSFETとIGBTの構造を示した。パワーMOSFETは、ウエハーの縦方向に電流を流すので、IC用のMOSFETよりも大電流を流せる。なお、ここで示したパワーMOSFETは「プレーナ構造」と呼び、他に「トレンチ構造」という、ゲート電極をウエハーに埋め込んだ構造もある。現在主流のIGBTは、MOSFETとバイポーラトランジスタを組み合わせた構造で、耐圧とスイッチング性能を兼ね備えている(出所:日経クロステック)