ウエハー内製が相次ぐ
キャパシティーの拡大と共に、もう1つ注目すべき動きは垂直統合だ。各社はウエハーメーカーを買収し、川上から川下までの一貫製造体制を築こうとしている。狙いは品質向上とサプライチェーンの強靭(きょうじん)化である。SiCウエハーは現状、結晶欠陥が多くデバイスを安定生産しにくいという課題がある。そこで全工程を管理する必要性が生まれ、ウエハー開発にも手を伸ばしている。自社でウエハーが造れれば、安定調達にもつながる。各社は内製と外部調達を並行して進めている。
STマイクロエレクトロニクスは2019年12月にスウェーデンのSiCウエハーメーカーNorstel(ノルステル、現STMicroelectronics Silicon Carbide、ST-SiC)の買収を完了し、2024年に内製率を40%まで高める。ロームはドイツSiCrystal(サイクリスタル)を2009年に、オンセミも2021年8月に米GTATをそれぞれ買収した。オンセミは「2022年末にはSiC収益の大部分がGTAT生産によるものとなる」(同社)と話す。ロームは内製率を公表していない。
デバイス各社がウエハーの内製化を進めることで、ウエハーメーカーとしてシェアトップのウルフスピードの立ち位置が危うくなる。同社のウエハーは高品質と評判が高いが、他社が一貫体制でデバイスとの最適化を進めたらその優位性が保てなくなりそうだ。
なお、インフィニオンテクノロジーズのみ、ウエハーを内製していない。「今後も事実上ないだろう。ウエハーメーカーの買収は独占禁止法の回避が困難なためだ」(加藤氏)という。実は同社は、過去にウルフスピードの買収を断念した経緯がある。2016年7月に8.5億米ドルでの買収計画を発表したが、対米外国投資委員会(CFIUS)から「米国の国家安全保障にリスクを生じさせる」と反対が入ったことが理由とみられる。ただし、同社はその後2020年4月に米Cypress Semiconductor(サイプレスセミコンダクター)を買収し、回路設計や制御用ICなどのトータルサポートを強化している。