前回(第1回)の内容を復習すると、メタバースの普及の鍵を握るXR端末関連の約8000件もの特許出願から、年平均他社被引用数の大きい129件を重要特許として特定し、これを母集団とした出願人ランキングを得た(図1)。
これらの重要特許には、他よりも業界潮流が多く内包されている蓋然性が高い。そのため、個別に内容を確認し、要点を抽出して整理すれば、業界潮流を効率的にあぶり出すことができる。つまり、上位出願人のうち、複数社について共通に認められる要点を特定すれば、業界潮流をあぶり出せるというわけだ。
参考に供した図2は、筆者が2019年に自動車業界のMaaS(Mobility as a Service)の潮流をあぶり出した例だ。複数社について共通に認められる「個別化」をMaaSの普及に向けた潮流としてあぶり出したものである。
また、上位出願人の各社固有の要点、換言すれば、他の出願人にはあまり認められない要点については、各社の特徴である蓋然性が高い。これらを整理すれば、各社の特徴を同様に効率的にあぶり出すことができる。
XR端末関連の7つの潮流
本テーマでは、上述した重要特許129件のうち、上位出願人(トップ8)が占める82件を個別確認の対象とするが、個々の確認結果を1つずつ説明するのは現実的ではなく、かつ読者にとって苦痛となりかねないため、まずはそれらの結果からあぶり出された、XR端末関連の潮流一覧を示すこととする(図3)。
あぶり出されたのは、以下の7つの潮流だ。①ラグ/違和感のない像+レンダリング最適化、②MR(複合現実)グラスなどのハードウエア構成(導光部)最適化、③ユーザー間情報共有/一体感〔UX(ユーザー体験)向上〕、④ジェスチャー操作の高度化、⑤通信状態が悪い場合の影響最小化、⑥校正個別最適化によるMRグラスなどの高性能化、⑦虹彩などのバイオメトリック個人認証採用機運──。
XR端末に関する専門家にとっては見聞きしたことがあるものばかりかもしれない。だが、これら7つの全てを潮流として根拠をもって列挙することは容易なことではないはずだ。しかし、筆者のIPランドスケープ*によれば、これらの潮流を容易にあぶり出せる。7つの潮流の詳細については、次回以降に詳述するのでご覧いただきたい。
* 知財情報戦略(狭義のIPランドスケープ)。https://japio.or.jp/00yearbook/files/2019book/19_2_10.pdf
なお、筆者のIPランドスケープは、本テーマのように個別分析を前提とするインサイドアウト型に限らない。近年の伸び率の高い分野に着目するアウトサイドイン型や、両者のハイブリッド型も取り扱っており、対象となる技術分野や業界/業種に応じて取捨選択できることも付言しておく。