総合評価落札方式の「賃上げ加点」は突然やってきた。始まりは財務省が2021年12月17日に各省庁へ宛てた通知だ。政府が提唱する「新しい資本主義」の下で、賃上げを実施する企業を入札で優遇する措置の導入を求めた。1週間後の12月24日には、国土交通省が各地方整備局などに同様の通知を出している。
例えば、資本金1億円を超える法人税法上の「大企業」の場合、従業員1人当たりの賃金を3%以上増やすとの表明があれば、直轄工事などの総合評価の入札で加点する。資本金1億円以下の「中小企業等」の場合、従業員の給与総額を1.5%以上引き上げるとの表明があればよい。加点数は、総合評価の加算点などの5%以上に設定する。
しかし、政府の意向を受けて大慌てで作り上げたとみられるその通知はお粗末で、とてもそのまま実行できる内容ではなかった。通知で示した1人当たりの賃金とは、各種の手当や賞与、残業代などを含めた年間給与の総額を従業員数で割ったもの。他の算出方法は認めていなかった。
当然、建設業界からは困惑とともに疑問の声が噴出。特に問題視されたのが、定期昇給を含む1人ひとりの賃上げではなく、単純に給与総額、または給与総額を人数で割った金額を対象としていた点だ。例えば、賃金水準の低い若手を数多く採用すれば、1人当たりの給与を引き下げる要因となる。
すかさず業界団体は動き出した。自民党「公共工事品質確保に関する議員連盟」の幹事長を務める佐藤信秋参院議員らに制度への要望や疑問点を伝達。運用の見直しを国へ働きかけてもらった。
そのかいあって、財務省は22年2月8日に運用の見直しを各省庁に通知した。継続雇用の社員だけを対象とする、再雇用者など賃金水準の異なる社員を除く、賞与や残業代を除く──。こういった様々な算出方法を、各企業の実情に応じて選べるようにした。逆に何でもあり、といった様相だ。