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 減塩食を食べても、満足できる塩味を感じる――。キリンホールディングスは明治大学と共同で、食事の塩味を増幅させる技術を開発したと2022年4月に発表した。箸型デバイスに微弱な電気を流し、舌で感じる塩味を増幅させる(図1)。同社のヘルスサイエンス事業部新規事業グループの佐藤愛氏は「減塩食への満足度を高められる可能性を見いだした」と話す。

図1 塩味を増幅させるデバイスを使っている様子
図1 塩味を増幅させるデバイスを使っている様子
箸型デバイスに微弱な電流を流し、舌で感じる塩味を増幅させる。(出所:キリンホールディングス)
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 病気の予防や治療のために、特定の栄養成分やカロリーなどの摂取量に制限が必要となる人は多い。アレルギーのために食べたいものが食べられない場合もある。しかし、慣れた食生活を切り替え、食事制限を継続するのは簡単ではない。多くの人にとって食事は喜びと直結する。食事制限によって満足度が低下し、一定の我慢が必要とされるのが現状の課題だ。この課題を解決しようというデジタル技術が続々と登場している(図2)。

図2 食事制限の課題
図2 食事制限の課題
これまで制限された食事ではおいしさや満腹感に対して「我慢するのが当たり前」と考えられていた。未来の食事では、様々なデジタル技術によって感覚を誘導し、満足度を向上できる可能性がある。(取材を基に日経クロステックが作成)
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 冒頭で紹介した技術もその1つだ。「残念ながら減塩食はおいしいとは言えないのが現状だ。患者に減塩食の生活を続けてもらうのは難しいことだと感じる」と脳卒中などの患者の診療に当たる脳神経内科医の福島大喜氏は話す。

 「高血圧症の予防には減塩を中心としたバランスの取れた食生活が重要だが、行動変容を促すのは簡単ではない。継続するために、おいしく楽しく減塩するという発想も必要だ」(福島氏)。減塩食でありながら十分に塩味を感じさせられる技術があれば、食事の満足度が高まり、ひいては食事制限に対するハードルが下がるはずである。