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 前回、オンラインサイトで販売されているGaNパワー半導体採用の65W級USB充電器4製品と、米Apple(アップル)の67WのUSB充電器の性能を評価した。今回は、これらの製品を分解し、その内部構造を見ていく。

 分解と分析は、半導体周辺回路と応用製品の開発・設計を得意とするエンジニアリング会社Wave Technology(兵庫・川西市)が行った。同社は、開発・設計の知見を生かす形で、リバースエンジニアリングサービスも得意としている。

 個別製品の内部構造を紹介する前に、分解の結果分かったことを3点示しておく。まず、すべての製品がDC-DCの変換に「フライバック方式」を採用していたことだ。同方式の基本回路は、図1に示すように、1次側(入力側)にあるスイッチング素子をオン/オフすることで、電圧変換を行うというものである。今回の製品ではすべて、2次側(出力側)にもスイッチング素子を入れ、1次側のスイッチと2次側のスイッチを同期して動作させることで高効率化する構造(同期整流方式)になっていた。

図1 フライバック方式によるDC-DC変換動作
図1 フライバック方式によるDC-DC変換動作
電圧は1次側のコイルと2次側のコイルの比によって決まる。スイッチング素子をオンにすると1次側のコイルにエネルギーが蓄えられ、オフにするとこのエネルギーが2次側に移動する。これを繰り返すことで電圧変換を行える。フライバック方式は主に100W以下のDC-DC変換で使われる(図:日経クロステック)
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 2点目は筐体(きょうたい)が立方体に近い小型の製品では、その構造がよく似ていたことだ。回路を3枚の基板に分割して立体的に配置した上で、内部に高密度にシリコーン樹脂を充填することで放熱に配慮していた。

 3点目は外部のサーモグラフィーによって最も温度が高かったのは、コンセントからの商用電源を整流する整流器の部分であったことだ。

 以下では、それぞれの製品について、分解の結果を示す。

Anker Nano II 65W

「Anker Nano II 65W」の筐体の内部にはピンク色のシリコーン樹脂がぎっしりと詰め込まれていた。筐体に熱を効率良く逃がすための工夫とみられる(図2)。

図2 Anker Nano II 65Wの内部構造
図2 Anker Nano II 65Wの内部構造
筐体内部は、大量のシリコーン樹脂で充填されていた。筐体に効率良く熱を逃がすための放熱対策と考えられる。従来製品(「Anker PowerPort Atom」など)に採用されていた、放熱やノイズ対策のためのアルミ板は非搭載だった(写真:Wave Technology)
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 内部には、上面、側面、下面に沿うように計3枚の基板が設置されていた。上面の基板には、ブリッジ整流器(Bridge Rectifiers)が搭載されており、交流(AC)の商用電源を直流(DC)にする前段のAC-DC部となっていた(図3)。側面の基板には、DC-DCコンバーターの1次側回路、下面の基板には2次側に当たる素子が載っていた(図4)。この下面基板には、USB PDのコントローラーICや、Type-Cのポートも搭載されていた(図5)。つまり、上面の基板から入った交流電源が、側面の基板、下面の基板という具合に渡され、Type-Cポートより出ていく構造になっている。大型の部品であるトランスやコンデンサーは3枚の基板の内側に収まるように配置されていた。

 上面の基板にはブリッジ整流器が2つ搭載されていた。1つで済む整流器を2つ用意したのは、発熱対策ではないかと推測される。また、1次側の基板にはフライバック方式のDC-DCコンバーターを実現するためのスイッチング素子として、コントローラーも内蔵した米Power Integrations(パワーインテグレーションズ)の「INN4075C」が搭載されていた。

図3 Anker Nano II 65Wの上面基板
図3 Anker Nano II 65Wの上面基板
交流の商用電源を直流にする整流回路が搭載されている。内側(左)にはヒューズ、コンデンサー、コイルが搭載されており、コンデンサーとコイルで1段のラインフィルターを構成している。外側(右)には、整流回路(ブリッジ)を2個の低背部品で構成している。発熱を考慮したものと推測される。また基板上には、雷サージ対策用のエアギャップがあった(出所:Wave Technology)
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図4 Anker Nano II 65Wの側面基板
図4 Anker Nano II 65Wの側面基板
フライバック方式のDC-DC変換回路の1次側が収容されている。内側(中央)には、トランスと電解コンデンサーが搭載されていた。コンデンサーには2次側基板との絶縁対策とみられる樹脂製のケースがかぶせられていた。外側(右)には、スイッチングデバイスとして、GaN HEMTを搭載したPower IntegrationsのフライバックコントローラーIC「INN4075C」が搭載されている。さらに、この充電器の特徴として、INN4075Cと協調動作するPower IntegrationsのアクティブクランプフライバックIC「CPZ1062M」が組まれている(出所:Wave Technology)
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図5 Anker Nano II 65Wの下面基板
図5 Anker Nano II 65Wの下面基板
フライバック方式のDC-DC変換器の2次側が搭載されている。基板の内側(左)にはType-Cポートがある。基板接続(GND)が確実にできるように貫通穴は端面スルーホールで作られている工夫があった。外側(右)にはUSB PDコントローラーやMOSFETなど2次側の部品が搭載されていた (出所:Wave Technology)
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Amoner USB-C Charger AM65C01

 「Amoner USB-C Charger AM65C01」の筐体を開くと、Anker Nano II 65Wと同じくシリコーン樹脂がびっしりと詰め込まれていた(図6)。こちらのシリコーン樹脂は、ピンクではなく白色だった。

図6  Amoner USB-C Charger AM65C01の内部構造
図6  Amoner USB-C Charger AM65C01の内部構造
Anker Nano II 65Wと同様に、筐体内部には放熱対策と考えられるシリコーン樹脂が大量に詰め込まれていた(写真:Wave Technology)
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 基板の配置もAnker Nano II 65Wと同じで、上面、側面、下面に沿うように3枚あり、役割もそれぞれ商用電源からの整流回路、1次側回路、2次側回路である(図7図8図9)。2次側回路基板(下面基板)には、やはりUSB PDコントローラーICとType-Cポートが搭載されていた。トランスやコンデンサーといった大型部品を内側に巻き込むように配置した形状も同じである。

 ただし、スイッチングデバイスには、中国GaNextの650V GaN FETチップ「G1N65R240PB」が使われており、これを米onsemi(オンセミ)のフライバックコントローラーIC「NCP1342AMDCDD1R2G」から制御する形態となっていた。onsemiのコントローラーIC以外の主要部品は、すべて中国メーカー製となっており、国産化を積極的に進めた製品のようだ。

図7 Amoner USB-C Charger AM65C01の上面基板
図7 Amoner USB-C Charger AM65C01の上面基板
交流電源の整流回路となっている。内側(左)には、ヒューズ、コンデンサー、コイルが搭載されており、コンデンサーとコイルで1段のラインフィルターを構成している。外側(右)には整流回路(ブリッジ)に2個の低背部品を使っている。放熱のための工夫と推測される(出所:Wave Technology)
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図8 Amoner USB-C Charger AM65C01の側面基板
図8 Amoner USB-C Charger AM65C01の側面基板
フライバック回路の1次側が搭載されている。スイッチングデバイスには中国GaNextのGaN FETが使われていた(出所:Wave Technology)
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図9 Amoner USB-C Charger AM65C01の下面基板
図9 Amoner USB-C Charger AM65C01の下面基板
内側(左)には、TypeーCポートが実装されている。USB-PDコントローラーを担っていると推定される急速充電プロトコルICも搭載されている。外側(右)には、MOSFETなど2次側の部品が搭載されている(出所:Wave Technology)
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