前回は、オンラインサイトで販売されているGaNパワー半導体採用の65W級USB充電器4製品と、米Apple(アップル)の67WのUSB充電器を分解した。今回は、この分解結果から明らかになった回路図と、スイッチング波形、輻射(ふくしゃ)ノイズについての評価結果を紹介する注1)。
分解と分析は、半導体周辺回路と応用製品の開発・設計を得意とするエンジニアリング会社Wave Technology(兵庫県川西市)が行った。同社は、開発・設計の知見を生かす形で、リバースエンジニアリングサービスも得意としている。
アクティブクランプを採用したAnker
図1が5製品の回路図である。分解によって判明したICやディスクリート素子の型番と、その型番の部品の仕様書などから推測して作図した。ここから分かるように、「Anker Nano II 65W」「AOHi MAGCUBE 65W PD Mini Fast Charger」「Mackertop AC ADAPTER SBT200325UZ」の3製品が米Power Integrations(パワーインテグレーションズ)のGaN HEMTのスイッチングデバイス内蔵のフライバックコントローラーIC、「Amoner USB-C Charger AM65C01」「Apple USB-C 67W Power Adapter A2518」の2製品が米onsemi(オンセミ)のフライバックコントローラーICと、外付けスイッチングデバイスの組みで実現している。なお、すべての製品が型番の異なるフライバックコントローラーICを採用していた。
Anker Nano II 65Wが採用しているフライバックコントローラーICが「INN4075C」である。このICは、アクティブクランプコントローラーIC「CPZ1062M」と連携して動作する。こうすることで、フライバックスイッチでのソース-ドレイン間の立ち上がり時のリンギング(電圧振動)の振幅を小さくするとともに、ZVS(ゼロ電圧スイッチング)を実現する。これにより、スイッチング損失を減らし、輻射ノイズも減らすことが可能である。加えて、2次側にもMOSFETを搭載し、同期整流によって効率を向上させている。不連続モード(DCM)†、連続モード(CCM)†の両方に対応できる。
†連続モード(CCM)=フライバックスイッチのオフ期間内に2次側の順方向電流がゼロに達せず、流れ続けているモード。不連続モードより損失が増えるが、リップルの振幅が少なく、輻射ノイズを低減できるという利点がある。
AOHi MAGCUBE 65W PD Mini Fast ChargerはPower IntegrationsのフライバックコントローラーIC「INN3370C」、Mackertop AC ADAPTER SBT200325UZは同「SC1933C」を採用していた。SC1933Cは、INN3370Cよりも世代の古いコントローラーである。Ankerとは異なり、これらのコントローラーICは、アクティブクランプには対応していない。いずれも、疑似共振(QR)モード†、DCM、CCMのマルチモードに対応する。
Amoner USB-C Charger AM65C01は、onsemiのフライバックコントローラーIC「NCP1342AMDCDD1R2G」、Apple USB-C 67W Power Adapter A2518は同「NCP1340B4D1R2G」を搭載していた。いずれも、フライバックスイッチでQRモードのスイッチングを行う「Valley-Lockout回路」を有している。また、Appleが採用するNCP1340B4D1R2Gは同期整流ドライバーIC「NCP4305DDR2G」によってDCM、CCMにも対応する。
以上から、最も高度なコントローラーICを使っているのが、Anker Nano II 65Wであることが分かった。