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 政府情報システムのクラウド活用を巡り、不協和音が生じている。

 各府省庁は、政府情報システムを構築する際にクラウドサービスを第一候補として検討すべしとする政府の「クラウド・バイ・デフォルト原則」に従い、それぞれの情報システムをクラウド上に移行する取り組みを続けている。一方で、デジタル庁は政府情報システム全体の「司令塔」として、政府情報システムにおけるクラウド活用の方針づくりや政府共通のクラウド基盤である「ガバメントクラウド」の整備に取り組んでいる。

 本来であればそれぞれの取り組みは協調・協力すべきもの。だが現実には各府省庁とデジタル庁の連携はスムーズとは言えない。

デジタル庁のアンケート、「うちには届いていない」

 不協和音の一例が、2022年春にデジタル庁が各府省庁に対して実施したアンケートに見て取れる。デジタル庁は各府省庁に対して、2023年度以降は原則としてガバメントクラウドの利用を検討するよう求めている。このアンケートでは実際に2023年度からガバメントクラウドを利用するかどうかの意向を尋ねた。

 ところが、ある府省庁は「ガバメントクラウドを利用しない」と回答を返した。別の府省庁関係者は「回答のしようがない」と戸惑いを隠さなかった。なぜこうしたすれ違いが生じたのか。それは「ガバメントクラウドとは具体的に何かが分からない」(前述の府省庁関係者)からだ。

 原因はデジタル庁にある。ガバメントクラウドは複数の民間クラウドサービスから成る「マルチクラウド」であり、民間クラウドサービスはデジタル庁がクラウド事業者と契約する。

 だが、デジタル庁が今回のアンケートを実施した時点で、調達のうえでガバメントクラウドとしての採用を決めたクラウドサービスは、米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス)の「Amazon Web Services(AWS)」と米Google(グーグル)の「Google Cloud Platform(GCP)」の2つしかなかった。本来であればガバメントクラウドで使う他のクラウドサービスが決まってからアンケートを実施すべきだったが、当初見込みより調達は遅れていた。

 遅れの原因の1つは、既存システムからの移行作業や移行後の運用について検討の甘さが露呈したこと。現時点では調達時期は2022年夏ごろの見込みだ。マルチクラウドをうたいながらAWSとGCPしか選択肢にないなかでのアンケートに対し、回答側が戸惑うのも無理がないといえる。

 さらに別の府省庁職員は言う。「うち(の部署)にはそのアンケートは届いていない」。この職員の部署は政策の一環として情報システムを開発・運用している。

 デジタル庁がアンケートを送ったのは各府省庁のいわゆるシステム部門である。ただ各府省庁のシステム部門は必ずしも全庁のシステムを取りまとめているわけではない。多くの府省庁は政策を担当する部署がそれぞれ政策ごとに必要な情報システムを整備し、運用している。

 民間企業でいえば事業部門がそれぞれ部門システムを開発運用しているようなもの。デジタル庁は司令塔でありながらそれぞれの政府情報システムについて担当部署と連携が取れていない可能性がある。

理想しか描かないデジタル庁

 デジタル庁と各府省庁の「溝」が生まれつつあっても、行政DX(デジタルトランスフォーメーション)は社会の要請であり止めることはできない。その一環で政府は2021年12月24日に閣議決定した「デジタル社会の実現に向けた重点計画(以下、重点計画)」で、政府情報システムのコスト削減について具体的な数値目標を示した。2020年時点の5400億円を2025年度までに3割削減するというものだ。

 これに従い各府省庁は2022年8月末までに5か年を基本とする中長期計画を策定することが求められている。業務改革を推進したり、共通機能を徹底して使ったりしてコスト削減につなげるというのが基本線だ。

 一方、デジタル庁には司令塔として、「共通基盤」の整備とその利用の徹底が求められた。共通基盤とは、ガバメントクラウドを指すほか、府省庁間を結ぶWANや各府省庁内のLAN、職員のパソコンなどを包含する「ガバメントソリューションサービス」も指している。

政府情報システムにおけるデジタル庁の役割
政府情報システムにおけるデジタル庁の役割
(出所:デジタル庁の資料「デジタル社会の実現に向けた重点計画」と取材を基に日経クロステック作成)
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 デジタル庁が与えられた役割を果たすには、乗り越えるべき3つの課題がある。

 1つ目が、デジタル庁が「具体策」を提示できていない点だ。デジタル庁は「理想像」を描くが、実際にシステム運用と業務を担う各府省庁担当者からはその具体的な姿が見えない。

 例えばデジタル庁が整備する「政府情報システムにおけるクラウドサービスの適切な利用に係る基本方針(旧称:政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針)」。2022年夏にも改定し、クラウド・バイ・デフォルト原則にのっとって進めてきた「クラウドファースト」から、新たに「クラウドスマート」へと大きくかじ取りを変える。

 ここでいうクラウドスマートとは、ITインフラの構築や管理を人手ではなくコードベースに切り替えて自動化する「IaC(インフラストラクチャー・アズ・コード)」や、運用や開発に役立つ各種機能をサービス化した「マネージドサービス」をフル活用するという意味だ。

 「最新技術トレンドを行政システムに取り入れたいという狙いは理解できるが、方針だけでは説得力がない」。改定についてこう指摘するのは、国立情報学研究所の佐藤一郎教授だ。

 佐藤教授はデジタル庁の政策を評価する有識者会議の座長を務めている。「各府省庁にクラウドスマートを促すには、デジタル庁がクラウドスマートをどう利用し、どんな効果があったかを実践例としてまず示すべきである」(佐藤教授)。