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 デジタル庁は現在、各府省庁や地方自治体が共同利用するクラウド共通基盤「ガバメントクラウド」を2023年度に本格稼働させるべく、整備を急いでいる。そうしたなか、いち早くクラウド利用を本格化させている省庁がある。農林水産省だ。

 農水省は今のところ、2023年度からのガバメントクラウド利用を見送る方針である。既にガバメントクラウドと同じ「マルチクラウド」の省内向けクラウド共通基盤「MAFFクラウド」を整備・活用しているためだ。

 農水省の主要システムは約70個ある。MAFFクラウド上で2021年1月に2システムを稼働させ、2022年度内に18システムを稼働させる計画だ。2024年度までには、約70システムのうち、他のクラウドサービスを利用していたり、そもそも対象のクラウドサービスを使う必要がなかったりするシステムを除く、残りの35システムでMAFFクラウドを利用する予定である。

AWSとAzureを併用

 MAFFクラウドは2本柱から成る。1つは民間事業者のパブリッククラウドと連携して動作する「MAFFクラウド共通機能」である。農水省が省内で使う閉域網とパブリッククラウドを仲介する、セキュリティーなどの「必要最小限」の統制機能で構成している。具体的には、閉域網との接続機能、監査ログ収集機能、脅威検出機能、不適切設定検知機能などから成る。

 パブリッククラウドは現状、米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス)の「Amazon Web Services(AWS)」と米Microsoft(マイクロソフト)の「Microsoft Azure」を使えるようにしている。MAFFクラウドを含め農水省全体のシステム数で見ると、AWSとAzureの利用比率はおよそ7対3という。

 MAFFクラウドで使えるパブリッククラウドについては、「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP、イスマップ)」のリストに登録されたクラウドサービスの中から追加する方向で検討する。米Google(グーグル)の「Google Cloud Platform(GCP)」も検討するが、農水省の情報システムは小規模のものが多く、大規模データ分析に強みを持つGCPを利用したいというニーズが現状は少ないという。

MAFFクラウドの構成イメージ
MAFFクラウドの構成イメージ
(出所:農林水産省への取材などを基に日経クロステック作成)
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 MAFFクラウドのもう1つの柱は、オンプレミス環境からクラウド環境への移行支援作業である。担当するのは、2021年度に発足させた技術支援に向けた組織「MAFFクラウドCoE」だ。CoEとはセンター・オブ・エクセレンスの略で、技術に特化した組織を指す。MAFFクラウドCoEはクラウド移行を検討する各部署のPJMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス、プロジェクト推進組織を指す)担当者に対し、検討から企画、予算要求、設計・構築、保守運用までのそれぞれの段階で技術支援している。

「不適切な民間クラウド利用」の苦い経験も

 MAFFクラウドを主管するのは農水省のデジタル戦略グループだ。2017年度から政府CIO補佐官として農水省の情報システムを担当し、現在は同省でITテクニカルアドバイザーを務める坂本俊輔氏が2017年秋にMAFFクラウドの構想を提案し、検討がスタートした。

 2019年秋にMAFFクラウド共通機能の整備が決まり、前述のように2021年1月に稼働した。「クラウド利用で課題になるのは移行費用が膨らむこと。移行には、クラウドの知識がある人だけでは不十分で、対象のシステムや業務に詳しいPMO (ポートフォリオ・マネジメント・オフィス、府省内全体管理組織を指す)が関わることが不可欠だ」(坂本氏)との考え方から、MAFFクラウドCoEをPMO内に発足させた。

 共通機能と移行支援を自前でそろえる――。農水省が先進的なクラウド活用に至った背景には、「不適切な民間クラウド利用」が省内で生じた苦い経緯がある。

 農水省は霞が関の中でもいち早く2015年から2018年ごろにかけてパブリッククラウドの利用を進めてきた。だが結果として、他のベンダーに移行しにくくなる「ベンダーロックイン」が発生してしまったという。

 理由は、省全体のクラウド利用指針がないまま各部署がばらばらにパブリッククラウドの導入を進めたためだ。それまでのオンプレミス環境でシステムを開発運用してきた国内ベンダーが、自社のクラウドサービス上にアプリケーションをスクラッチで再構築するケースが多かった。これらのクラウドサービスは技術仕様や費用が公開されておらず不透明なうえに、使い勝手も悪かったという。

 前述の通り、農水省のシステムは小規模なものが多い。そうしたシステムを整備・運用するのは、政策や業務を担当する各部署の職員である。クラウドという新しい波をどう乗りこなすべきなのか。各部署の職員が個別に知見を得るのは難しかったわけだ。