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 政府が推進する民事裁判手続きのIT化。2025年度までに実現させるため、最高裁判所がクラウドサービスをフル活用するシステム整備に乗り出した。実行するのは、情報システム部門と業務部門の混成チームである。

本格的なクラウドに初挑戦、「まずはつくってみよう」

 2022年5月、民事裁判の手続きをIT化する改正民事訴訟法が成立した。2025年度に向けて、「訴状のオンライン提出」「Web会議の活用」「判決文や訴状など記録の電子化」などを段階的に進める。

 民事裁判手続きのIT化に必要なシステム整備は多岐にわたる。

民事裁判手続きのIT化に必要な項目
(出所:民事裁判手続等IT化研究会の報告書「民事裁判手続のIT化の実現に向けて」を基に日経クロステック作成)
1 オンラインによる訴え提起
2 事件管理システムを利用した送達
3 Web会議などを利用した口頭弁論
4 Web会議などを利用した争点整理
5 Web会議などを利用した証人尋問
6 事件管理システム上の書証の電子データ閲覧による証拠調べ
7 判決書を電子的に作成し事件管理システムにアップロード
8 訴訟記録を電子化し、当事者は随時オンラインアクセス

 最高裁はまず、民事裁判の書類をオンラインで提出できる「民事裁判書類電子提出システム(mints、ミンツ)」の運用を2022年4月に開始した。原告がPDFファイルで書面をアップロードすると、被告にその旨がメールで通知され、必要な書類をダウンロードできるシステムだ。

 mintsは最高裁として初めて本格的にクラウドサービスを使って国民向けに開発したシステムとなる。「国民がインターネットでアクセスして書類をアップロードするので、クラウドサービスの利用が適していた。民事裁判手続きのIT化に関する法改正を待たずに、まずはつくってみようと取り組んだ」。最高裁の事務総局デジタル推進室に所属する西岡慶記参事官はこう振り返る。

 開発に当たったのは民事裁判の政策を担当する民事局と情報システム部門である情報政策課の混成チームである。2019年度後半に10人弱のチームで発足し、2020~2021年度にかけて米Microsoft(マイクロソフト)のクラウドサービス「Microsoft Azure」上にmintsのアプリケーションをスクラッチで開発した。

 最高裁はmints の運用を段階的に広げている。まず2022年4月に甲府地方裁判所と大津地裁で運用を開始。2022年6月に知的財産高等裁判所、東京地裁、大阪地裁でも運用を始めた。今後も順次利用を広げる予定である。

官民混在チーム「デジタル推進室」を発足

 mints稼働により、国民との接点のIT化に乗り出した最高裁。ただ裁判所の内部事務はIT化されておらず、依然として紙の書類でやり取りしている。

 そこで、2025年度の民事裁判手続きIT化の全面展開に向け、業務改革(BPR:ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)も進め、関連システムを刷新する。具体的には、mintsのようなオンライン提出システムだけでなく、オンライン会議システムやファイル共有システムを構築してコミュニケーションをデジタル化する。加えて、裁判記録の電子化を進めるため文書管理システムを刷新する。2022年度中に要件定義をするとしている。

 一連の取り組みの司令塔となるのが「デジタル推進室」である。前述のmints開発に当たった混成チームを母体に2021年4月に発足した。これによりmintsは「(民事裁判手続きIT化の)フェーズゼロ地点」(西岡参事官)となった。

 重要なミッションを担うデジタル推進室だが、辞令上は正式な組織ではない。政策企画と情報政策を担当する審議官をトップとし、民事局や刑事局、情報政策課などから職員が参画する「プロジェクトチーム」という位置付けだ。プロジェクトチームとした理由は、短期間にチームを編成してすぐに業務に取りかかる必要があったことと、部署横断の混成チームをつくること自体が実験的な試みだったからである。

最高裁判所の組織図。デジタル推進室は事務総局内のプロジェクトチームとして設置した
最高裁判所の組織図。デジタル推進室は事務総局内のプロジェクトチームとして設置した
(出所:最高裁判所の公開情報と取材を基に日経クロステック作成)
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 現状、裁判所全体を見渡すと業務部門がそれぞれで利用する業務システムを開発しており、システムやサーバーが乱立するなど裁判所全体でのITマネジメントが行き届いているとは言えない状況だ。これに対し、国民との接点から内部事務まで一気にデジタル化を進めるという民事裁判手続きIT化を契機に、「業務部門と情報システム部門が二人三脚でシステムを整備する」(西岡参事官)との考え方から部署横断の混成チームを構成した。

 デジタル推進室は「システム開発グループ」と「総務・企画グループ」から成る。それぞれ約30人が所属し、合計50~60人という規模だ。

 システム開発グループは情報政策課のほか民事局、刑事局、家庭局などから職員が参加している。現在のメインプロジェクトは民事裁判手続きIT化に向けたシステム整備であり、同業務に約20人が携わっている。一方の総務・企画グループは裁判所全体のITインフラ整備や組織マネジメントなどを推進している。

 デジタル推進室はプロジェクトチームではあるが専用の執務室を持っている。最高裁の1階、人の出入りが多くもともとは食堂だったスペースを、フリーアドレスの執務スペースとして改装。2021年夏からデジタル推進室メンバーの一部はここに常駐している。

デジタル推進室の執務室。フリーアドレスでオープンスペースに会議室を複数備える。幹部の個室はガラス張りで開放的なつくりとした
デジタル推進室の執務室。フリーアドレスでオープンスペースに会議室を複数備える。幹部の個室はガラス張りで開放的なつくりとした
(出所:最高裁判所)
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