大阪公立大学大学院の鐘本勝一氏らの研究グループは、電気化学発光セル(Light-emitting Electrochemical Cell、LEC)の電界発光(EL)過程で生じる電子状態の変化を観測することに成功した。LECに限らず、有機LED(OLED)も含めた発光素子全般に適用できる。本手法を活用することで詳細なEL過程が明らかとなり、発光効率を低下させる要因の早期発見につながると期待される。
キーワード | 電気化学発光セル、LEC、LED、電界発光、EL、イオン液体材料、光吸収スペクトル、発光効率、素子診断システム |
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関連研究者 | 鐘本勝一、保地滉介 |
関連研究機関 | 大阪公立大学大学院 |
関連企業 | 日本化学工業 |
関連論文掲載先 | Nature Communications |
関連論文タイトル | Visualizing electroluminescence process in light-emitting electrochemical cells |
関連論文URL | https://www.nature.com/articles/s41467-023-36472-6 |
詳細情報 | https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-04783.html |
日本化学工業と共同で研究した。本研究では、イオン液体材料から作成した高輝度LECに対して、EL過程で生じる電子状態の変化を直接観測することに成功した。研究グループは分光技術を使った独自の手法を用いて、電子とホールが持つ光吸収スペクトル計測とEL動作を同期させた。その結果、ELを起こすための電圧を印加してから、マイクロ秒(μs)の時間スケールでスペクトルが変化する様子を「初めて観測できた」(研究グループ)。加えて、解析によりLECの発光メカニズムは①電圧印加の後、直ちにホールが発生し、ホールを収容する層が電子側の電極との界面近くまで成長してからわずかな電子との再結合を経てELが発生する、②その後ホール層の後退と同時に、電子を収容する層が徐々に成長しながらEL量が定常になる、という2段階をたどることが分かった。
研究グループによれば、本手法の活用により、EL過程の詳細を明らかにできることに加え、素子動作を阻害する過程の早期発見につながると期待される。今後は、測定時間の短縮化を図り、迅速な素子診断システムの実現を目指す。
最近のスマートフォンや大型テレビでは有機材料のEL特性を利用した有機LEDが利用されている。研究グループによれば、ELは、印加電圧により発生する電子と、電子の抜け穴である正電荷のホールが出会う再結合反応によって生じるが、同時に再結合を阻害する反応も生じる。そのため、発光に至る過程を精査することが性能向上に向けた必須課題となっている。一方で、結合過程の情報を直接観測する実験手法はなく、実際の開発現場では素子に流れた電流や発光輝度をバロメーターに、手探りで材料の改良などが進められている。