大阪公立大学大学院の許岩氏らの研究グループは、ナノ流体デバイスに搭載したナノバルブを外部からの圧力によって開閉することで、溶液中の1分子の流れ(単一分子フロー)を制御することに成功した。加えて、バルブ内のナノ空間には分子に対して特異的な効果があることを発見した。精密医療・産業用材料の開発や、疾患バイオマーカー分子を利用する診断技術開発への活用が期待できる。
キーワード | ナノバルブ、ナノ流体デバイス、単一分子フロー、バルブナノ空間、ブラウン運動、精密医療用材料、産業用材料、疾患バイオマーカー分子 |
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関連研究者 | 許岩、川岸啓人、田中陽、船野俊一 |
関連研究機関 | 大阪公立大学大学院、理化学研究所 |
関連論文掲載先 | Nano Letters |
関連論文タイトル | Flexible Glass-Based Hybrid Nanofluidic Device to Enable the Active Regulation of Single-Molecule Flows |
関連論文URL | https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.nanolett.2c04807 |
詳細情報 | https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-04861.html |
理化学研究所(理研)と共同で研究した。一般にナノ流体デバイスは、ナノサイズの流路を形成した2枚の硬いガラス板を貼り合わせて作製する。本研究では一方にリボンのように薄くて柔らかいガラス板を、もう一方にナノ流路とバルブ機能を持つ微小な構造物を形成した硬いガラス板を使用した。柔らかいガラスに外部から圧力を加えて変形させることで、微小な構造物がピンポイントでナノ流路を閉塞・開放するバルブの機能を果たす。これにより流路を流れる溶液中の1分子を制御する。次に、ナノ流体デバイスを流れる溶液中の分子の動きを確認するため、蛍光を発する分子の溶液を観測した。蛍光信号は、溶液中の蛍光分子の数が少なくなるほど弱くなるが、微小なナノバルブ部分の空間(バルブナノ空間、深さ47nm)では分子の数が少ないにもかかわらず、分子から発生する光信号が増強することが分かった。さらに、1分子のブラウン運動の変化を観測したところ、バルブナノ空間ではナノ流路内に比べて運動範囲が狭く、ブラウン運動の抑制効果が確認された。これらのことから、バルブナノ空間には閉じ込めた分子に対して特異的な効果があることが分かった。
本研究によって、ナノ流体デバイス内を流れる1分子を制御し、リアルタイムで追跡することが可能になった。研究グループによれば、今後、溶液中の分子1つひとつを自由自在に操作できるようになれば、これまで難しかった分子の合成や操作も可能になる。個人の体質に合わせた認知症・がんなどの疾病、あるいは希少疾患の治療薬のための精密医療用材料の開発が期待できる。また、バルブナノ空間の特異的な閉じ込め効果を生かすことで、従来より性能や寿命が優れたディスプレーや電池の材料開発も期待される。ごくわずかな検体から、ウイルスやがんなどの疾患バイオマーカー分子を簡便かつ迅速に検出する診断技術の開発も期待される。