東京都医学総合研究所の尾原圭氏らの研究グループは、大脳皮質-脊髄間をつなぐ神経経路である皮質脊髄路の役割を持つ皮質脊髄路インターフェースを開発した。これを用い、脊髄損傷モデルサルの手の力の調整能力を再獲得させることに成功した。脊髄損傷による運動まひを持つ患者の機能回復が期待できる。
キーワード | 皮質脊髄路インターフェース、大脳皮質、一次運動野、発火率、刺激強度、刺激周波数、ニューロン、運動機能回復 |
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関連研究者 | 尾原圭、西村幸男 |
関連研究機関 | 東京都医学総合研究所、新潟大学 |
関連論文掲載先 | Frontiers in Neuroscience |
関連論文タイトル | Corticospinal interface to restore voluntary control of joint torque in a paralyzed forearm following spinal cord injury in non-human primates |
関連論文URL | https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnins.2023.1127095/full |
詳細情報 | https://www.igakuken.or.jp/topics/2023/0307.html |
大脳皮質の一次運動野には、脊髄へ神経結合がある皮質脊髄路ニューロンがあり、その皮質脊髄路は力の調節を担っている。本研究では、この皮質脊髄路ニューロンの機能を持つ、コンピューター皮質脊髄路インターフェースを開発した。この皮質脊髄路インターフェースは、大脳皮質の神経細胞活動の程度(発火率)を、脊髄への電気刺激の刺激強度と刺激周波数にリアルタイムで変換できる。脊髄損傷モデルサルで有効性を検討したところ、まず、同インターフェースを適用しない場合は脊髄への電気刺激がないために手の筋活動が生成されず、まひ状態のままだった。これに対し適用時は、要求される力の大きさに合わせて、インターフェースの入力信号として使われている運動野の神経細胞に、その活動の変調が見られた。これにより、脊髄刺激の強度と周波数が調節され、要求された力の大きさに応じて手首関節の力の大きさを制御できた。活動を示す神経細胞の数はインターフェース適用前に比べて2.6倍に増加した。要求された力が大きい場合はその数がより増大した。
研究グループによれば、脊髄損傷などによって皮質脊髄路が切断されると、大脳皮質からの信号が脊髄・筋に伝わらず、力の生成と調節を行う能力を失う。しかし大脳皮質と脊髄・筋は損傷しておらず、その機能は失われていない。損傷を免れた大脳皮質と脊髄を再結合させることができれば運動機能を回復できる可能性がある。本研究では、一次運動野の神経活動の変調が見られ、それによって制御された脊髄への電気刺激により、手の力の調節能力を取り戻せることが示された。脊髄損傷による運動まひを持つ患者が、物体の重さや柔らかさに応じた力の調節能力を取り戻せるようになると期待される。