走行中にトラックのエンジンから出火。車両と積み荷が全焼する事故が発生した。
トラックの所有者だった東和運送(大阪市)*1は「トラックには欠陥があった」と主張。製造元のいすゞ自動車を相手取って損害賠償金約1億円を請求した。
一審の大阪地裁はこの訴えを退けたが、二審の大阪高裁はいすゞ自動車の製造物責任を認め、請求金額のほぼ全額に当たる約9400万円の支払いを命じた。
トラックのエンジン出火で製造物責任が認められた事例は極めて珍しい。
本稿では大阪地裁と大阪高裁の判決文を基に、事故の経緯と原告が訴えたエンジンの欠陥を解説。
今回はトラック所有者が「通常予想される形態で車両を使用していたか」「車両の点検・整備に事故の原因を発生させる不備がなかったか」という争点に対する大阪地裁の判断を中心に取り上げる。
事故が発生したのは2012年7月7日午前2時20分ごろ。大型トラックが広島県東広島市内の山陽自動車道を走行中、ファンベルトが何かに当たっているような「パタパタ」という異音に運転手が気付いた。その後、「ドン」という大きな異音がしてタイヤがバーストしたため、運転手が路肩に停車させたところ、車体下部から炎が出ていた。
運転手の通報を受けた消防隊が消火に当たったが、車両と積み荷が全焼した。この時、車両が停止した地点からその手前約100mの地点まで、路面にエンジンの部品が散乱していた。
事故後の調査の結果、直列6気筒式ディーゼルエンジンのシリンダーブロックの壁に穴が開き(図1)、開口部から流出したエンジンオイルが高温部に付着して発火したと判明した。また、エンジン内部にあった6個のコンロッド*2のうち、進行方向前方から5番目と6番目のコンロッドが大破していた。
トラックの所有者だった東和運送は2014年4月9日、「エンジンが出火したのは、シリンダーブロック内部のピストンとクランクシャフトを接続するコンロッドの強度不足が原因だ」として、トラックの製造元であるいすゞ自動車と販売元であるいすゞ自動車近畿を相手取り、1億526万3241円の損害賠償を求めて提訴した*3。
これに対していすゞ自動車は、「火災が発生したトラックの使用状況やメンテナンス状況には問題が多く、適正でなかった」と反論。真っ向から対立した。
結論から言うと、一審(大阪地裁2019年3月28日判決)では「原告がトラックを通常の用法に従って使用して必要な点検・整備を適切に実施していたとはいえない」と判断。その上で原告東和運送によるトラックの設計・製造上の欠陥に関する指摘を認めず、被告いすゞ自動車の損害賠償責任を否定。しかし、控訴審(大阪高裁2021年4月28日判決)では一転、「原告がトラックを通常の用法に従って使用し、点検・整備に事故の原因となるような不備はなかった」と認め、トラックに欠陥があると推認。被告いすゞ自動車に請求金額のほぼ全額に近い約9400万円の支払いを命じた*4。
東和運送の代理人を務めた弁護士の松森彬氏によると、「トラックのエンジンについて製造物責任を認めた初めての事例。社会的な影響は非常に大きい」という。
製造物責任法の趣旨にのっとれば、製品(今回の場合はトラック)の事故などによって損害を受けた使用者が「通常予想される形態でトラックを使用し、その間の点検・整備にも事故の原因となるような不備がなかった」ことなどを立証すれば製品に「通常有すべき安全性を欠いていた」として、欠陥があったと推認される。使用者が、エンジンのどこにどのような欠陥があったか、なぜ事故が発生したかといった詳細まで立証する必要はない。大阪高裁は今回、このような判断を下している。
今後、同種の事故が発生した場合、「1995年に製造物責任法が施行される前であれば使用者が欠陥を立証しようとしても容易ではなく、泣き寝入りせざるを得なかったような事例でも、今後は同法の趣旨が生かされて、使用者が必要な点検・整備をしていたときは、自動車メーカーが欠陥がなかったと立証しなければ責任が認められるケースが増えると予想される。自動車メーカーにとってもユーザーにとっても、非常に大きな意味を持つ判決だ」と、松森氏は強調する。
今回はこの事故の経緯と裁判の争点について、大阪地裁判決と大阪高裁判決の判決文1)を基に、主な争点となった「車両の設計・製造に関する欠陥、過失の有無」を中心に整理する*5。