全4385文字

2012年7月に発生したトラックの出火事故において、製造物責任が認められた。
この事故はエンジンから出火して走行中のトラックが全焼したというもので、トラックの所有者だった東和運送(大阪市)は、製造元のいすゞ自動車を相手取って損害賠償金約1億円を請求*1。一審の大阪地裁は、原告の主張を退けたものの、二審の大阪高裁は一転していすゞ自動車の製造物責任を認め、請求金額のほぼ全額に当たる約9400万円の支払いを命じた(図1)。
第2回では判決文を基に、いすゞ自動車に賠償責任を認めた大阪高裁の判断を取り上げる。

図1 破損したコンロッド
図1 破損したコンロッド
写真手前が進行方向。左は前方から5番目のコンロッド。右は前方から6番目のコンロッド。前方から5番目のコンロッドは、この進行方向に対して右側(写真で見ると左側)ボルトがコンロッドキャップとの接合面から外側に向かって逆「く」の字に折れ、途中で破断していた。トラックの使用者の東和運送は、「エンジンが出火したのは、シリンダーブロック内部のピストンとクランクシャフトを接続するコンロッドの強度不足が原因だ」と主張した。(写真:佐藤国仁)
[画像のクリックで拡大表示]
*1 東和運送の所在地は事故当時。現在は大阪府寝屋川市。

 「トラックのエンジンから出火するなど事故が発生しても、訴訟にまで発展するケースは少なかった」。トラックの火災事故で、原告である東和運送の代理人を務めた弁護士の松森彬氏はこう話す。

 従来は訴訟になっても、製造物責任法に基づく判断枠組みが確立していなかったため、原告である使用者に事故発生のメカニズムなどの証明が求められた。しかし、エンジンの専門家ではない使用者にとって、この証明は現実的には困難だ。エンジンを開発・設計したメーカーの『事故の原因は整備不良』などとする主張が通り、欠陥が認められないケースが多かったという。

 ところが、大阪高裁は2021年4月28日判決で、使用者である東和運送に事故発生の「原因・機序(メカニズム)についての証明責任を負わせるのは酷だ」との見解を示した。製造物責任法の趣旨にのっとり、使用者が「通常予想される形態でトラックを使用し、その間の点検・整備にも事故の原因となるような不備がなかった」ことなどを立証すれば製品に「通常有すべき安全性を欠いていた」として、欠陥があったと推認。使用者が、エンジンのどこにどのような欠陥があったか、なぜ事故が発生したかといった詳細まで立証する必要はないとの判断を下したのだ。

 大阪高裁はなぜ、東和運送がトラックを「通常予想される形態で使用しており、車両の点検整備に事故の原因となる程度のオイルの不足・劣化が生じるような不備がなかった」と認め、いすゞ自動車が「これを覆すに足りる立証をしているとはいえない」と結論付けたのか。大阪高裁の判決文を基に、その理由について解説する1)

参考文献
 1)「判例時報」2022年7月1日号

使用者は製造元に対して約1億円の損害賠償を請求

 まずは事故の概略についておさらいしよう。

 2012年7月7日、広島県東広島市内の山陽自動車道を走行中だったトラックのエンジンから出火。車両と積み荷が全焼した。事故後の調査の結果、直列6気筒式ディーゼルエンジンのシリンダーブロックの壁に穴が開き、開口部から流出したエンジンオイルが高温部に付着して発火したと判明した。

 トラックの所有者だった東和運送は、「エンジンが出火したのはコンロッドの強度不足が原因だ」として、トラックの製造元であるいすゞ自動車らを相手取り、1億526万3241円の損害賠償を求めて提訴。これに対していすゞ自動車は、「火災が発生したトラックの使用状況やメンテナンス状況には問題が多く、適正でなかった」と反論。真っ向から対立した。

 一審(大阪地裁2019年3月28日判決)では「原告がトラックを通常の用法に従って使用して必要な点検・整備を適切に実施していたとはいえない」と判断。その上で原告東和運送によるトラックの設計・製造上の欠陥に関する指摘を認めず、被告いすゞ自動車の損害賠償責任を否定した。

 しかし、控訴審(大阪高裁2021年4月28日判決)はこの大阪地裁判決を覆し、被告いすゞ自動車に請求金額のほぼ全額に近い約9400万円の支払いを命じた。いすゞ自動車は上告受理申し立てを申請したが、最高裁判所はこれを不受理とし、大阪高裁の判決が確定した。