2022年10月12日に予定されていた「イプシロン」ロケット6号機の打ち上げが失敗に終わった*。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の衛星打ち上げ用ロケットの失敗は、2003年11月29日に内閣官房の情報収集衛星2機をペイロード(積載物)とするH-IIAロケット6号機の打ち上げに失敗して以来19年振りだ。JAXAは同日午前、山川宏理事長を長とする対策本部を立ち上げて、事故原因の究明を開始した。
2段燃焼終了後に姿勢の異常が発生して飛行を中断
イプシロン6号機の第1段と第2段は正常に飛行した。同ロケットは、1段と2段はロケットノズルの首振りで、ヨー(進行方向を左右に振る軸)とピッチ(同上下に振る軸)の姿勢を、小型の噴射装置でロール(左右の傾き)回りの姿勢を制御する。これに対して第3段は、ロール軸回りに高速回転させてコマと同じ要領で姿勢を維持する仕組みになっている。
このため、第2段噴射終了後、スピンモーターというロール軸回りの回転を加速する噴射装置を動作させ、機体を高速回転させてから、第2段を分離し、直後に第3段を点火する。この時、スピンモーター噴射開始の時点で、ロケットは所定の正しい姿勢を維持している必要がある。
今回の打ち上げでは、第2段燃焼終了までは正常に飛行した。しかし、スピンモーター噴射開始の前提となる「正しい姿勢の維持」ができていなかった模様だ。この状態で、「スピンモーターを噴射→機体高速回転→第2段分離→第3段噴射」とシーケンスを進めても、第3段は見当違いの方向に噴射して機体を加速するので、衛星を所定の軌道に投入できず、場合によっては落下による被害を発生させる。
ロケットはこのような事態に備えて、破壊機構を装備している。イプシロンロケットの場合には2段と3段の側面に、火薬を使ってロケットモーターに亀裂を入れる火工品を装着してある。ロケットモーターに亀裂が入ると、たとえ推進剤を点火しても内圧が上がらないので推力が発生せず、ロケットはそのまま分離後の2段が落下する海域へと落ちていく。第2段の落下海域は、あらかじめ航路情報として船舶に立ち入り禁止を通知しているので、残骸が落ちても安全は確保される。
事前にJAXAが公表していた6号機の打ち上げシーケンスと、実際の打ち上げ時刻を比較すると、指令破壊コマンドの送信を打ち上げ後6分28秒で送信している。第3段燃焼開始が打ち上げ後6分34秒の予定だったので、今回の指令破壊コマンドの送信は、時間的余裕がまったくない打ち上げ途中のトラブルながら、ぎりぎりまで姿勢回復を粘ってからの判断だったとうかがえる。