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 2020年12月4日、日本航空(JAL)のBoeing(ボーイング)777-200型機が那覇から東京国際空港(羽田空港)へ向けて上昇中、同機左側エンジンのファンブレードが破断した(図1)。元凶は製造時にファンブレードの内部表面に溶着したわずか約0.1mmの金属粒。これが起点となって生じた亀裂が定期検査でも発見されず、疲労破壊につながったとみられる。

図1 事故を起こしたボーイング777の機体
図1 事故を起こしたボーイング777の機体
(写真:運輸安全委員会)
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 以下では、国土交通省の運輸安全委員会が2022年8月25日に公表した事故の調査報告書を基に事故の概要と原因を解説する1)

 事故を起こした日本航空904便(以下、事故機)は2020年12月4日11時44分に那覇空港を離陸した。そのおよそ8分後、那覇空港の北約50kmの海上、高度17000ft(約5181m)で機体に振動を伴う異音が発生し、左側エンジンの異常を示す計器表示があった。機長は同エンジンを停止。管制機関に緊急事態を宣言したうえで、那覇空港へ引き返すと決めた。エンジン停止後も機体の振動は続いたが、事故機は12時23分に那覇空港の滑走路上に着陸した(図2)。火災の発生はなく、搭乗していた189人にけがはなかった。

図2 推定される飛行経路
図2 推定される飛行経路
(出所:運輸安全委員会)
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 異常があった左側エンジンは米Pratt and Whitney(プラット・アンド・ホイットニー、以下P&W)のPW4074型(図3)。事故後の調査で同エンジンに数々の損傷があると分かった。まず、チタン(Ti)合金製のファンブレード22枚のうち1枚が根元部から(図4の16番、以下16番ファンブレード)、1枚が中間部から(図4の15番、以下15番ファンブレード)破断していた。

図3 P&W製のエンジンの構造と名称
図3 P&W製のエンジンの構造と名称
(出所:P&W、運輸安全委員会)
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図4 ファンブレードが破断した事故機の左側エンジン
図4 ファンブレードが破断した事故機の左側エンジン
(写真:運輸安全委員会)
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 16番ファンブレードの破断面には疲労破壊の痕跡がある一方で、15番ファンブレードにはなかった。このことから16番ファンブレードが先に破断し、その破片の衝突によって隣接する15番ファンブレードが破断したとみられる。15番、16番ファンブレード以外の全てのファンブレードには欠損、めくれ、へこみ、曲がりなどの損傷があった。

 ファンブレードの外周を覆う環状のファンケースも損傷していた。ファンケースは、ファンブレードが破断しても破片が突き抜けないようにアラミド繊維(ケブラー)で強化されている。実際、ファンブレードが貫通した痕跡はなく、ファンケースの一部が膨らんで外側の層のみが破れていた(図5)。

図5 事故機の左側エンジン
図5 事故機の左側エンジン
黄土色のファンケースは一部が膨らみ、外側の層が破れた。(写真:運輸安全委員会)
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 ファンブレードのすぐ後方には、整流を目的としたファンエグジットガイドベーン(FEGV)が計82枚取り付けられていたが、全て脱落していた(図6)。そのうちの1枚は左側水平尾翼内から、2枚はエンジン後部を覆うリバースカウル内から発見された。左側水平尾翼にはFEGVの衝突によって幅が約28cmの穴と約20cmのへこみができていた(図7)。残り79枚のFEGV(約93kg)は発見されなかった。

図6 FEGVが脱落した事故機の左側エンジンと(左)と正常な状態のFEGV(右)
図6 FEGVが脱落した事故機の左側エンジンと(左)と正常な状態のFEGV(右)
(写真:運輸安全委員会)
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図7 左側水平尾翼前縁の損傷
図7 左側水平尾翼前縁の損傷
幅約28cmの穴と約20cmのへこみがあった。脱落したFEGVが衝突してできたとみられる。(写真:運輸安全委員会)
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 他にもエンジン全体を覆うカバーであるカウル類(名称は機体前方から、インレット、ファンカウル、リバースカウル)が損傷していた。ファンカウルは、左半分の約80%(重量約83kg)、右半分の約20%(重量約26kg)が脱落していた(図8)。インレットとリバースカウルは一部が脱落した。

図8 損傷したカウリング類
図8 損傷したカウリング類
ファンカウルの左側半分は80%が脱落した。(写真:運輸安全委員会)
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