エレベーターの扉が開いたまま、かごが上昇・下降する「戸開走行事故」が後を絶たない。2019年12月に京都市内の病院で発生したエレベーター事故もその1つだ。調査の結果、事故の元凶は製造不良でゆがんだとみられるブレーキ部品と推定された。さらに、設置・保守点検業者の作業内容や管理体制にも事故の要因となる大きな問題が潜んでいた。
2019年12月2日の午前10時50分、洛和会音羽病院(京都市)の患者とその家族、看護師の4人は、病室のある4階から手術室のある2階へ移動するためにエレベーターに乗り込んだ。2階に到着して扉が開き、患者らが降りようとしたその時、扉が閉まりながらエレベーターは上昇し始めた。
「ブザーが鳴り、大きな音がして、突き上げた」(事故調査報告書に記載された利用者の証言)。当該エレベーターは最上階を通り越して停止。その衝撃で天井の照明カバーが落下し、それにぶつかった患者の家族が軽傷を負った(図1)。
2022年12月に国土交通省が公表した事故調査報告書(以下、報告書)によると、製造不良でゆがんだとみられるブレーキ部品によってブレーキ機構の一部に焼き付きが起こり、ブレーキの保持力が低下したことが原因とみられる1)。これにより、かごと釣り合い重りの質量差による荷重でかごを静止保持できなくなり、釣り合い重りが下降し、かごは上昇した。
ブレーキは台湾製
当該ブレーキは台湾の企業である雄崎が製造し、三和エレベータサービス(京都市)が設置した。エレベーター本体は三菱電機製だが、三和エレベータサービスがカスタマイズしている。具体的には、ブレーキを搭載した巻き上げ機や、調速機などの主要部品を交換したという。報告書によると事故は、2018年8月12日に同社が交換した巻き上げ機で発生した。
以下では、報告書を基に原因の詳細を解説する。まずは、当該エレベーターのブレーキ機構について見ていく。
巻き上げ機に搭載されていた当該ブレーキは、ソレノイドやブレーキレバー、ブレーキアームなどから成る(図2)。電圧を印加しなければ、スプリングの力によってブレーキは制動状態にあり、電圧を加えるとブレーキが開放される。ソレノイド内部のブレーキコイルに電流が流れると固定鉄心とプランジャーの間に磁力が発生し、プランジャーとプランジャー押しボルトが固定鉄心側に引き寄せられる(図3)。すると、プランジャー押しボルトに接続しているブレーキレバーが上下方向に広がり、ブレーキドラムからブレーキパッドが離れ、ブレーキが開放される。これによりかごを動かせるようになる。