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 2022年4月1日、ソニーグループ(ソニーG)の最高技術責任者(CTO)に、研究子会社のソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)やソニーAIのトップを兼務する北野宏明氏が就任した。今後は、基礎研究から事業に直結する技術まで幅広い領域を所管することになる。

 北野氏は、長らく日本の人工知能(AI)研究をリードするとともに、システム工学の観点から生命現象の仕組みを理解する「システムバイオロジー」の第一人者でもある。この“スーパー研究者”は、通常のエレクトロニクス企業の枠をはるかに超える多様な事業ポートフォリオを持つソニーGを、テクノロジー面からどう率いていくのか。同氏へのインタビューを3回にわたって掲載する。(聞き手は内田 泰、佐藤雅哉、高野 敦)

(写真:加藤 康)
(写真:加藤 康)
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ソニーGのCTOとしてのミッションをどう捉えていますか。一口に研究開発(R&D)といっても、ソニーCSLとソニーAIは組織としての性格がだいぶ異なりますし、各事業部門も個別にR&Dを進めていて、非常に多様です。

 まず、ソニーCSLは研究部門の1つですが、基本的には“ブルースカイリサーチ”というか、探索的です。ソニーGの事業のことは気にせず、非常にユニークな個人の研究者に、自由に研究してもらうことが主体です。暦本(純一氏、副所長、東京大学大学院教授)、茂木(健一郎氏、シニアリサーチャー、脳科学者)、舩橋(真俊氏、シニアリサーチャー、SynecO社長)など、個人の突破力でいろんなことを研究していく組織です。

北野氏発言の概要(出所:日経クロステック)
北野氏発言の概要(出所:日経クロステック)

 一方、2020年に設立したソニーAIは、ソニーGの戦略に沿ったコーポレートに近い組織です。何をやるかは、技術的な重要性と事業展開の重要性で戦略的に決めていきます。ただし、人材獲得の方針はユニークで、AIに関して世界のトップタレントをグローバルベースで集めています。現在は日本、米国、欧州に拠点を開設していますが、日本であっても日本人の社員の比率は1割程度です。今後は、別の地域にも拠点を開設するかもしれません。

研究組織と事業部門の連携をさらに実践

 グループ全体のCTOになると、こういった組織も含めて全社のR&Dを見ていかなくてはいけません。そして、まずはソニーGの現在のビジネス領域に関する技術力をしっかりと高めていくことが大切です。足元がぐらついたらどうにもなりませんから、そこはきちんとやっていきます。

 研究組織と事業部門の連携は今でもかなり密にやっていますが、さらに効果的に実践していくこと、そして事業の次の展開をしっかり議論しながら手を打っていく必要があります。

 もう1つ重要なのは、既にソニーAIなどでは始めていますが、“アップサイド”を狙えるような仕掛けです。今の時代は破壊的なテクノロジーが市場を一変させてしまうこともあるので、現在の事業のもっと先の時間軸を見据えたり、別の領域の研究に挑戦したりすることが大事です。もちろん、うまくいくものもあるし、うまくいかないものもたくさん出てくると思いますが、研究開発においてもアップサイドを狙うための仕込みを強化していきます。

アップサイドには、例えば新規事業も含まれるのですか。

 そうです。今までソニーGが手掛けてこなかった新規事業がそこから生まれることもあると思います。例えば、既存の事業から見て非連続な領域や、想定される範囲だけど集中的に取り組まないと実現できないようなものは、トップタレントの集団を使って取り組むようなことも考えられます。

技術と経営の関係についてはどうお考えですか。

 昨今、テクノロジーカンパニーにおいて、経営と技術が連動しないということはあり得ないと思います。このような技術があるからこんな事業ができて、だからこのような経営方針をとる、もしくはこの経営方針だったらどういう技術を作っていくべきかという考え方になります。

 このあたりは最高経営責任者(CEO)の吉田(憲一郎氏、ソニーG会長兼社長)、最高財務責任者(CFO)の十時(裕樹氏、同社副社長)と議論しながら、さらには各事業ユニットのマネジメント層と議論しながら戦略を決め、実際の研究開発活動にフィードバックしていきます。

 実践に当たって非常に重要なのは、やはりビジョンです。我々はどこに向かっていくのか、ソニーGは事業を通じてどういう世界を作ることに貢献していくかということを明確にしていく必要があります。これがCTOの役割だと考えています。