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久保田氏はアンモニア燃料の普及に向けて他社との連携が重要だと話す(写真:加藤 康)
久保田氏はアンモニア燃料の普及に向けて他社との連携が重要だと話す(写真:加藤 康)
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 IHIが、次世代燃料の需要を追い風に事業を拡大している。高効率な発電設備などで培った燃焼技術を生かし、アンモニア燃料向けの発電インフラの実証を各国で進める。燃やしても二酸化炭素(CO2)を排出しないアンモニアは、石油や天然ガスに代わる火力発電の燃料として市場の成長が見込める。常務執行役員技術開発本部長グループ技術全般担当の久保田伸彦氏に、IHIの次世代エネルギー事業の戦略について聞いた。(聞き手は佐藤雅哉=日経クロステック)

IHIはアンモニア燃料技術に注力しています。

 IHIが成長分野と位置づける中で、カーボンニュートラルに向けた事業に最も多くの研究開発費を投じている。例えばアンモニアの燃焼技術や、水素とCO2からメタン燃料をつくるメタネーション技術などだ。IHIは、アンモニアの燃焼技術を10年前から開発してきたが、普及にはアンモニアの生産から輸送・貯蔵、利用といったバリューチェーン全体を考える必要がある。これら全てが研究開発の対象だ。

 IHIのアンモニア燃料技術が評価されて、さまざまな企業と協業を進めている。2023年1月には、米General Electric(ゼネラル・エレクトリック、GE)と、アンモニア燃料で発電するガスタービンの開発で提携した。(東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資する)JERAとは同社の碧南火力発電所(愛知県碧南市)でアンモニア混焼に向けた実証事業を進めている。さらに、ガスタービンやガスエンジンなどさまざまな燃焼機器にアンモニア燃料を適用する研究も進めている。

アンモニア混焼の実証実験を進めるJERAの碧南火力発電所(上)と、IHIが開発する実証用バーナー(下)(出所:JERA)
アンモニア混焼の実証実験を進めるJERAの碧南火力発電所(上)と、IHIが開発する実証用バーナー(下)(出所:JERA)
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アンモニアの合成も担うのでしょうか。

 アンモニアの燃焼だけでなく、バリューチェーンの上流も担う。アンモニアの合成では、再生可能エネルギーを使って水を電気分解し、その水素でアンモニアを合成する「グリーンアンモニア」の基礎研究に主軸を置いている。アンモニアの輸送や貯蔵でもIHIが長年培ったLNG(液化天然ガス)のタンク技術を転用できる。アンモニアはセ氏マイナス33度で液体になるため輸送しやすく、水素のキャリアになるなど優れた特性がある。

 このように開発リソースを押さえながら、一気通貫の技術開発を実現できている。IHIの祖業が造船だったこともあり、大規模な構造物を造る加工技術やエンジン、発電機、電気回りなど、さまざまな要素技術を有している。ボイラーは石炭からLNG、アンモニアへと時代に合わせてターゲットを変えてきたが、ベースとなる強みの技術は変わっていない。

さまざまな組織と協力関係を築いています。

 IHIは、CO2フリーアンモニアの普及促進を図る「クリーン燃料アンモニア協会(CFAA)」に参加して、多くの会員企業と情報交換や、安全のための基準づくりに取り組んでいる。一方、欧州は水素エネルギーの普及に積極的であり、関連コンソーシアム「Hydrogen Council(水素協議会)」にも参加して議論を交わしている。次世代エネルギーを考えたとき、地域によってアンモニアが良い場合もあれば、水素が良い場合があるので、どちらにも対応していく。

 東北大学ともアンモニアバリューチェーンに関する共創研究所を2022年9月に設立し、課題探索と解決に取り組んでいる。他にもさまざまな組織と連携を深めていきたい。大事なことは「競合」という意識を持たないことだ。本当に世界で次世代エネルギーを普及させていきたいなら、企業や組織間で争っている余裕はないはずだ。