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 元トヨタ自動車の社員が立ち上げたeVTOL(電動垂直離着陸)機、いわゆる「空飛ぶクルマ」を開発するベンチャーのSkyDrive(愛知県豊田市)。安全性を認証する型式証明の日本での取得と、2025年に開催される大阪・関西万博での事業開始を目指す。2022年3月には、スズキとの事業・技術連携協定を締結した。CEO(最高経営責任者)の福澤知浩氏へのインタビュー後編では、スズキへの期待やeVTOLの社会実装に向けた課題などを聞いた。(聞き手=内田 泰)

御社は10km圏内を結ぶエアモビリティーサービスの提供を目指していますが、将来的にどの程度のニーズがあると考えていますか。

 中長期的には、今タクシーを利用している人の多くが利用するようになると考えています。なぜなら、eVTOLの自動運転が一般化すればコストがタクシーとほぼ同等でありながら、4~5倍のスピードで飛んでいけるからです。そうなれば市場規模は国内だけでも大きいですし、アジアの国々には日本より交通渋滞で困っている人が多いので、さらに大きな需要を見込めます。ポイントは、こうしたサービスをどのような時間軸で提供できるかだと考えています。

福澤 知浩(ふくざわ・ともひろ)
福澤 知浩(ふくざわ・ともひろ)
東京大学工学部を卒業後、2010年にトヨタ自動車に入社し、グローバル調達に従事。同時に多くの現場でのトヨタ生産方式を用いた改善活動により原価改善賞を受賞。2018年にSkyDriveを設立し、「空飛ぶクルマ」と「カーゴドローン」の開発を推進。経済産業省と国土交通省が実施する「空の移動革命に向けた官民協議会」の構成員として、空飛ぶクルマの実用化に向けて政府と新ルール作りにも取り組む。Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング2021」のTOP20に選出、MIT Technology Reviewの「Innovators Under 35 Japan 2020」を受賞。写真内の機体は試作機「SD-03」(写真:SkyDrive)
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2022年3月にスズキとの事業・技術連携協定の締結を発表しましたが、福澤さんがスズキに最も期待することは何ですか。

 やはり、一番は機体の量産に関する知見です。あとインドを中心とするアジア市場への販路の部分も大きいと思います。

機体の生産数についてはどのように予測されているのでしょうか。

 今のところ具体的な数字を公表していませんが、2025年からすぐ飛び始めることを想定し、きちんと事業を立ち上げていこうと考えています。そうした中でもスズキが有するノウハウは、造りやすい機体を設計するなど、さまざまな部分に生かされると思います。

SkyDriveは2021年10月、国土交通省航空局に2人乗り機体「SD-05」の型式証明を申請して受理され、2025年の事業化を目指すと発表しました。大阪・関西万博の開催は2025年4月なので、取得はそれ以前ということですよね。

 はい。取得に関しては2025年の本当に早期を目指しています。もちろん、最終的に航空局と合意ができればということになります。

仮に型式証明の取得が万博に間に合わない場合は、万博での活動はどうなるのでしょうか。

 型式証明を取得しないでデモンストレーション飛行をするといった方法もありますので、何らかの飛行方法を検討することになると思います。

ドローンと異なり人を乗せるeVTOLには厳しい安全対策が求められます。御社が開発するマルチコプター型の機体は固定翼がないため、仮に動力がすべて停止した場合に滑空ができない弱点が指摘されていますが、どのように安全性を担保するのでしょうか。

 我々の場合は、プロペラの1つが破損するなど何らかのトラブルが発生した場合、すぐに緊急着陸するという形で対応しようと考えています。固定翼型のeVTOLも、もし翼が折れるなどのトラブルが発生すれば墜落のリスクはありますし、それぞれの機体についてこの一線を越えたらまずいというものが存在します。

それはつまり、運航ルート近辺に最寄りの緊急着陸場みたいなもの配備しておくということでしょうか。

 ヘリコプターと同じです。ヘリコプターの場合は特にそのようなものは配備していなくて、常にパイロットが地上を見てこの校庭、このゴルフ場なら下りられる、というような判断をしています。パイロットが操縦する初期はそのような形になると思います。

 もちろん、将来的に数多く運航する際はあらかじめ配備しておく必要があるかもしれませんが、最初のうちはパイロット判断になるでしょう。