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 「空飛ぶクルマ」の社会実装に向けた動きが激しくなってきた。国内では2025年4月開幕の「2025年日本国際博覧会」(大阪・関西万博)がスタートのターゲットだ。一方、欧米では2024年ごろの商用化を目指した取り組みが進められている。日本の先を行く海外での機体開発やインフラ、制度整備、ビジネス設計などの最新動向に関する情報は、空飛ぶクルマの社会実装を進めるうえで大いに参考になる。空飛ぶクルマの海外動向などに詳しい、三菱総合研究所の大木孝氏に2回に分けて解説してもらう。(日経クロステック)

 「空飛ぶクルマ」、いわゆる電動垂直離着陸(eVTOL)機が世の中に広く知られるようになったのは、2016年10月、配車サービス最大手の米Uber Technologies(ウーバー・テクノロジーズ)が発表した、都市における空の移動サービス構想がきっかけだ。

 通常、自宅から都市中心街までクルマで2時間の道のりを、eVTOLによるオンデマンドな空の移動でたった15分に短縮するという画期的なサービスである。バーティポート(Vertiport、Vポート)と呼ばれるeVTOLの離着陸場を整備しネットワーク化することで、道路や橋、トンネルといったインフラに対するコスト低減のメリットも提唱された。

 それから約6年が経過し、空の移動サービス構想は、多くの国や地域、企業の取り組みによって、社会実装に向けて着々と準備が進められている。当面のハードルは、機体の「型式証明」の取得である。

 開発が先行する米Joby Aviation(ジョビー・アビエーション)の「S4」やドイツVolocopter(ボロコプター)の「VoloCity」は、2023~2024年ごろに型式証明を取得し、2024年ごろの商用化を目指して機体開発を進めている。

 同時に、運航サービスの計画も明らかになりつつある。ドイツLilium(リリウム)は、フロリダ州のオーランド市と提携し、eVTOLの離着陸施設の建設を計画するなど、企業と自治体が連携した取り組みが進んでいる。これと並行して、米連邦航空局(FAA)や欧州航空安全局(EASA)では、eVTOLの型式証明や運航サービスの許認可、離着陸場の設置などを進めるための制度や安全基準を検討しており、段階的に整備されてきている。

 こうした、海外で先行する取り組みを知ることは、日本のeVTOLの実装に向けた準備を進める上で不可欠になる。どのような機体を用いてどのようなサービスが提供されるのか、どのようなインフラが必要になるのか。今後、海外のサービスを導入する準備の視点だけではなく、日本独自のサービスを検討する上でも参考になるだろう。また、制度面では、欧米の制度や基準との整合が図られることから、その動向を注視する必要がある。

20年代前半の商用運航開始目指す

 空飛ぶクルマの技術振興を進める米国の非営利団体The Vertical Flight Societyによれば、これまでに世界で650以上の機体のコンセプト(実証目的のものや開発を終了したものを含む)が提案されているが、それらは大きく5つのタイプに分けられる(図1)。

図1 世界で開発が進む空飛ぶクルマの機体タイプ
図1 世界で開発が進む空飛ぶクルマの機体タイプ
主に固定翼を持つ推力偏向とリフト・クルーズ、固定翼を持たないウィングレス、いわゆるマルチコプターの3種類がある。開発が最も活発化しているのは、エアタクシー向けに有望視されている推力偏向タイプである(写真:各社、図:三菱総合研究所)
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 なかでも開発が先行するタイプは、推力偏向(Vectored Thrust)、リフト・クルーズ(Lift+Cruise)、ウィングレス(Wingless、マルチコプター)の3つである。

 ウィングレスタイプは、垂直方向を向いた複数のプロペラの回転数を制御して離着陸と巡航を行う。航続距離は限定されるが、システムが比較的シンプルで静音性に優れる。一方、推力偏向タイプは、翼やプロペラを離着陸時は垂直方向、巡航時は垂直方向に偏向する。システムは比較的複雑になるが、比較的高速で長距離飛行が可能だ。リフト・クルーズタイプは、巡航用の翼と水平方向のプロペラ、離着陸用の垂直方向のプロペラを持ち、おおむねウィングレスと垂直偏向の中間的な特性を備える。

 早期の商用化が期待される主な機体を見てみよう(図2)。ウィングレスタイプの機体では、座席数が2で航続距離は35km程度であり、1つの都市・地域交通などへの適用が想定される。

図2 開発が先行する主要機体の概要
図2 開発が先行する主要機体の概要
推力偏向タイプが最も航続距離が長く、リフト・クルーズタイプがそれに続く。固定翼を持たないウィングレスタイプは航続距離がスペック値で35kmと短く、ユースケースが近距離での移動や遊覧飛行などと限定されそうだ(写真:各社、図:三菱総合研究所)
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 固定翼を有する推力偏向タイプやリフト・クルーズタイプの機体では、座席数が4~7で飛行距離は最大で200kmを超える性能が予定されており、都市ー郊外や都市間を結ぶ交通サービスなどへの適用が期待される。

 ほとんどの機体は、商用化当初はパイロットが機体に乗り込んで操縦する計画だが、中国Ehang(イーハン)の「EHang 216」は当初からパイロット無しの自律運航を予定している。

 eVTOLの商用化時期は、おおむね2024~2025年ごろと想定されている。機体の型式証明については、S4は2023年、VoloCityは2023~2024年、リリウムの「Lilium Jet」は2025年の取得を目指している。一方、EHang 216については、2022年半ばに中国航空当局より型式証明の取得を目指しており、その後、中国国内で徐々に商用サービスを開始する予定だ。