日本より一足先の2024年ごろの商用化を目指して、空飛ぶクルマ、いわゆる垂直離着陸(eVTOL)機の社会実装に向けた取り組みを進めている米国と欧州。空飛ぶクルマの海外動向などに詳しい、三菱総合研究所の大木孝氏の寄稿2回目では、基準作りや制度整備などの最新事情を解説してもらう。(日経クロステック)
空飛ぶクルマの社会実装を実現するため、日本を含む世界では制度や安全性の担保を目的にした基準の検討も進められている。中でも、先行するのは米国と欧州である。注目すべきは、制度検討に先立ち、eVTOLのコンセプトが示されている点だ注1)。
米連邦航空局(Federal Aviation Administration:FAA)は、2020年6月に「Urban Air Mobility (UAM) Concept of Operations (ConOps) Ver.1.0」(以下、UAM ConOps 1.0)を発表し、UAMという新たな交通形態とその運用のビジョンを示した。
UAM ConOps 1.0では、「Advanced Air Mobility (AAM)」と呼ばれる、都市や地方における旅客や貨物の輸送などを実現する高度な航空交通形態を定義し、その中で都市環境における将来の空の移動にスコープを当てた1つの形態をUAMとして定義した。UAMで利用される機体は「UAM航空機」として定義され、従来の有人航空機が航空交通管制の指示に従って飛行する空域とは区別された「UAMコリドー」内を飛行する。eVTOLは、UAM航空機に適用される方式の1つだ。(図1)。
UAM ConOps 1.0によれば、UAMの実装を段階的に進めていく方針が示されている。初期のUAMは、現行制度の下で機体の認証や運航が行われるが、次の段階として、規制の見直しやUAMコリドーの設定によってUAMの高頻度の運航を実現する。
さらにその次の段階として、新たな運航ルールやインフラに基づく高度に自動化された交通管理によって、パイロットが搭乗しない自律飛行、さらに安全で高頻度な運航を実現する、とされている。
現在、FAAでは、「UAM ConOps 2.0」を策定中だ。特に、UAM以外の機体の運航との連携やUAMコリドーのフレキシブルな設定などの観点でアップデートが検討されている。
一方の欧州では、eVTOLを無人航空機(Unmanned Aircraft System:UAS)の1つとして位置づけ、制度整備を進めている点が大きな特徴だ。欧州航空安全機関(European Union Aviation Safety Agency:EASA)では、無人航空機の規制区分を運航リスクの大きさの観点からOpenカテゴリー(低リスク)、Specificカテゴリー(中リスク)、Certifiedカテゴリー(高リスク)の3つに分けている。
Certifiedカテゴリーは、有人の航空機と同様に、機体の型式証明やオペレーター・操縦者のライセンスが必要とされる。旅客や貨物を運ぶVTOL注2)については、パイロットの有無にかかわらず、CertifiedカテゴリーのUASの1つとして位置づけ、今後、制度整備が進められる方針だ。
また、EASAは2022年6月に公表したUASの新たな規制枠組みに係る意見募集文書「Notice of Proposed Amendment (NPA) 2022-06 (NPA 2022-06)」の中で、欧州におけるUASやVTOLを用いた革新的な航空移動サービスのコンセプトを提案した。
その中で、マルチモーダルな交通システムに統合された新世代技術によって実現される旅客や貨物の安全・安心かつ持続可能な空のモビリティーとして、「Innovative Air Mobility(IAM)」を定義し、都市環境の内部もしくは都市環境内部と外部を結ぶIAMの運用をUAMとして定義している。FAAが提示したAAMとUAMの関係と類似した考え方だ。EASAは、このコンセプトをベースとして、欧州におけるUASやVTOLに係る包括的な制度整備を進めることを計画している。