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 「全固体電池の特性は、EV(電気自動車)よりも空飛ぶクルマ(eVTOL:垂直離着陸)機でより生かせる」。マクセルで全固体電池の開発に携わる、新事業統括本部電池イノベーション部部長の山田将之氏はこう話す。

 同社は「アルジロダイト型固体電解質」という硫化物系の全固体電池を開発している。全固体電池の固体電解質には硫化物系と酸化物系があるが、イオン伝導度が2~3桁高い硫化物系は、世界の自動車メーカーがEV向けに激しい開発競争を繰り広げている電池でもある。

 マクセルはコイン型と表面実装ができるセラミックパッケージ型の小型電池を開発済みで、後者の量産を2023年度に開始する予定だ(図1)。寸法は10.5mm×10.5mm×4mmで、容量は8mAhである(「PSB401010H」の場合)。まず産業用ロボットやエレベーターなどインフラ設備に向ける。

図1 開発したコイン型とセラミックパッケージ型の全固体電池
図1 開発したコイン型とセラミックパッケージ型の全固体電池
表面実装ができるセラミックパッケージ型については2023年度に量産化する予定。容量は8mAh(写真:マクセル)
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 同時に、新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)が実施する「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」(DRESSプロジェクト)の助成事業として、同じ材料系を使ったドローン向けの全固体電池の開発を進めている。まだ具体的な事業化計画はないものの、「2030年を目標にドローンやeVTOLといった空モビリティー向けの事業を立ち上げられればいいと考えている」(山田氏)という。

 2022年3月にはその開発成果として、容量が1Ahの、名刺サイズ大のラミネート型セルの試作を報告した(図2)。小型品の場合は固体電解質の粉を押し固めるだけで成型できるが、大型になるとそれを精度良く均一に実現するのが難しい。このため、スラリー状にした固体電解質を塗布して成型した。

図2 試作した全固体電池のラミネート型セル
図2 試作した全固体電池のラミネート型セル
容量は1Ahとセラミックパッケージ型など小型品と比べてかなり大きい。出力密度もリチウムイオン電池の2倍以上の水準だが、エネルギー密度は半分である(写真:マクセル)
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 ただし、現時点のエネルギー密度は120Wh/kgで、電解質に有機溶媒を利用する通常のリチウムイオン電池の先端品が示す250Wh/kgのレベルには到達していない。また、ドローンに応用するには「容量は少なくとも3Ah以上、できれば10Ahは必要でまだ改良が必要だ」(山田氏)としている。

 それでも出力密度は0.7kW/kgと、エネルギー密度を重視した民生用角形リチウムイオン電池の約2倍(マクセル製品比)。軽量・高出力であることが重視されるドローンやeVTOLへの応用のポテンシャルは十分に示している(図3)。

図3 空モビリティー向け全固体電池の開発目標
図3 空モビリティー向け全固体電池の開発目標
エネルギー密度と出力密度の向上を目指す。ドローンやeVTOLに応用するためにはリチウムイオン電池と同等以上のエネルギー密度を実現しながら、1kW/kg以上の出力密度が必要になるとみている(出所:マクセルの資料を基に日経クロステックが一部改訂)
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 同社は今後、リチウムイオン電池と同等のエネルギー密度である250Wh/kg、そしてドローン用として実用域の出力密度となる1kW/kg以上の実現を目指して改良を進める方針だ。