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 「現在の電池性能では、顧客に提供できる価値が限定的なものになる。当社の市場調査結果では、顧客ニーズは都市間移動に必要な航続距離400kmまで幅広く存在する。この幅広いニーズに対応するには、小型・軽量・高信頼性という特徴を持つガスタービンハイブリッドエンジンが最適と考えている」

 2030年ごろの空飛ぶクルマ、いわゆるeVTOL(電動垂直離着陸機)の事業化を目指して開発を進めているホンダは、現状のリチウムイオン/リチウムポリマー電池の性能は、eVTOLビジネスを本格展開していくのには不十分とみている(図1)。

図1 ホンダのガスタービンハイブリッド搭載eVTOLの模型
図1 ホンダのガスタービンハイブリッド搭載eVTOLの模型
航続距離として最大400kmを目指し、都市間移動での適用を狙う。2023年ごろに米国で試作機を飛ばし、2025年には米国でハイブリッドエンジンの機体を飛ばす計画。事業化にゴーサインが出れば米連邦航空局(FAA)での認証取得を目指すという(写真:日経クロステック)
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 ホンダだけではない。2024~2025年ごろの実用化が見込まれている“第1世代”のeVTOLの動力源は電池だが、2020年代後半から2030年ごろの実用化を目指す、より大型で航続距離が長い“第2世代”の動力源の主流はガスタービン発電と蓄電池のハイブリッドエンジンになるとみる人たちがeVTOL業界で増えている。「eVTOL用のガスタービン発電機の実用化を目指し、世界で開発競争が始まった」と、同市場に参入した国内スタートアップのエアロディベロップジャパン(ADJ、東京都小金井市)代表取締役の田邉敏憲氏は話す。

 この背景に、「現状の電池性能の限界にeVTOL業界の多くの人が気づいてきた」(日本UAS産業振興協議会(JUIDA)副理事長の千田 泰弘氏)ことがある。一般にモビリティーとしての事業性を考えると機体は大きい方が効率的だ。しかし、電池だと性能面の制約から「通常は5人乗りが限界。7人乗り以上の大型機体は実現が難しい」(田邉氏)。

 電池を動力源とするeVTOLで最も問題視されているのが充電時間だ。eVTOLでは2人乗りの機体でも電気自動車(EV)の2倍以上の200kWh程度、5人乗りなら5倍以上の容量の電池を搭載する。

 ところが、EV用急速充電器の出力は、国内で設置されているものでは50kWでも高い方だ。欧米では200kWを超える急速充電器も一部に設置されているが、それでも小型機体で充電に1時間、より大型になるとその何倍もの時間もかかることになる。「充電時間はモビリティーの稼働率に直結する。1時間に1回飛ばすにはせいぜい30分で充電しないといけない。現状の電池では充電に時間がかかり過ぎる」(千田氏)

 ガスタービンは、レシプロエンジンやロータリーエンジンと同様、内燃機関の一種であり、吸気・圧縮・燃焼・排気というサイクルで動作する。排気を利用してジェット噴流を生み出し推進力を得るのが航空機に搭載されているエンジンで、排気の出力を回転力として取り出して発電するのがガスタービン発電機である。eVTOLではガスタービン発電機での電力を動力源としてプロペラを回す。

 ガスタービンの特徴は、レシプロエンジンなどでは実現できない5万rpm(回転/分)以上という大きな回転速度が得られるため、大電力と高エネルギー密度を実現でき、設計の自由度が高い点にある。また灯油だけでなく、100%バイオ燃料や廃食油など持続可能な燃料を使用して環境負荷を低減することもできる。バッテリーで不可避の充電時間の無駄を省けるとともに、高価な急速充電設備の導入なども不要になる。

 eVTOLでは、ガスタービン発電機だけでなく電池と組み合わせたハイブリッドシステムが搭載されることになる。ガスタービンで発電機を回し、大きな出力が求められる垂直離着陸時などにはガスタービンとバッテリーの電力を組み合わせ、高度を確保した後の水平飛行時には、発電した電力を電池に蓄えながらモーターを駆動して飛行するといった使い方だ。

 eVTOLで重視される出力密度は、ガスタービンのハイブリッドシステムで約1kW/kg。これは現状のリチウムイオン電池の5倍、燃料電池の約2倍に相当する。

海外大手が開発に本腰

 既に海外では、eVTOL向けのガスタービンの開発が活発化している。例えば、デンソーと電動航空機用のモーターを共同開発している米Honeywell International(ハネウェルインターナショナル、以下ハネウェル)は、旅客機用の補助エンジン(機体最後部に設置するガスタービン駆動の発電機)に使うガスタービンを利用し、出力が1000kWのeVTOL用エンジンの試運転を開始している。

 また英Rolls-Royce(ロールス・ロイス)はガスタービンのハイブリッドシステムの開発を始めており、出力は500~1200kWを目指している。同社はeVTOLを開発する英Vertical Aerospace(バーティカル・エアロスペース)に基幹技術を提供している。

 バーティカル・エアロスペースが開発を進める最初の機体「VX4」は、日本航空(JAL)や丸紅を含め世界から1350機(2021年12月時点)の購入予約が入っているが、次期モデルはVX4のような純電動ではなくガスタービンハイブリッドになるとの見方も出ている(図2)。

図2 バーティカル・エアロスペースのeVTOL「VX4」
図2 バーティカル・エアロスペースのeVTOL「VX4」
推力偏向型の機体で5人乗り。既に世界から1350機の購入予約が入っているが、次期モデルの動力源はガスタービンハイブリッドになるとの見方も出ている(写真:Vertical Aerospace)
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 なお、ロールス・ロイスの開発プロジェクトにはドイツ政府が資金を提供することが決定しており、ドイツ最大の航空機エンジンメーカーのMTU Aero Engines(MTUエアロ・エンジンズ)も参画している。