空飛ぶクルマ、つまりeVTOL(垂直離着陸)機を使った商用運航サービスは、初期段階では通常の航空機と同様、パイロットによる操縦が行われる。しかし、将来の本命はパイロットが搭乗しないコンピューター制御による、自律・高密度運航である。これが実現しないと、「100兆円超」ともいわれる夢の巨大市場は、絵に描いた餅になってしまう可能性もある。
その実現に必要な基幹技術の1つが、空を飛び交う数多くのeVTOL機が衝突せずに安全に飛行できるように管理する航空管制である。しかも、通常時は人間の判断を必要としない自動システムが不可欠になる。
現状、民間航空機の管制は高度200m以上が対象で、国土交通省が管轄している。「どの機体がどこを飛んでいるのか」という機体の識別情報の取得には、能動型と受動型の2種類の方式がある。
まず、能動型は地上の管制システムからSSR(Secondary Surveillance Radar)と呼ばれるレーダーで質問信号を発射し、航空機に搭載されたトランスポンダー(自動応答装置)が機体の識別情報や高度・位置・方向情報を送り返す。受動型は、航空機がGPS(全地球測位システム)から取得した位置情報などを放送型データリンクによって一定間隔で送信しているので、管制システム側でそれを受信する。放送型自動従属監視(ADS-B:Automatic Dependent Surveillance–Broadcast)と呼ばれる。ADS-Bは、SSRより正確な位置情報が得られるなどのメリットがある。
一方、高度150m以上を飛ぶことになるeVTOL機向けの管制については、現時点でまだ決まったことはない。ただ1つ言えるのは、SSRが高度200m未満の空域に対しては、他の電波帯への干渉や人体への悪影響などの懸念から使用できないことだ。
こうした非管制区域を飛行するeVTOL機や宅配用の物流ドローン(高度150m未満を飛行)といった次世代エアモビリティーの管制に向けた技術を開発している国内スタートアップがある。FaroStar(東京・新宿)だ。
同社は「AURORA(オーロラ)」と名付けた衝突防止自動管制技術を開発し、次世代エアモビリティーへの適用を目指している。AURORAはトランスポンダーを搭載して位置情報などを発信する航空機や、2022年6月から「リモートID」と呼ばれる識別情報発信機器の搭載が義務づけられたドローンから機体識別情報を取得する。
これに加え、トランスポンダーを搭載していても位置情報などを発信していない機体については応答波を解析して機体に関する情報を把握する。例えば、「SSRモードA/C」というトランスポンダーを搭載している場合、識別コードと気圧高度情報を取得して、独自の計算によって位置と速度を推定するという。
またリモートIDを搭載していないドローンの識別については、ドローンが発信する通信用の電波を解析することで、機体と操縦士の位置を特定する。現在、この技術を防衛大学校と共同研究しており、2023年3月までに実証を開始する予定だ。
機体にルート変更・復帰を指示
AURORAは、FaroStarの都市交通管制システム(UMTCs)のコア技術で、同社が機体メーカーに独自プログラムを提供し、それを機体にインストールしてUMTCsに接続することで自動管制が可能になる。機体に飛行ルートがインプットされて自律飛行を始めると、UMTCsが飛行を監視する。UMTCsは他社のUTM(運行管理システム)とも連携が可能だ。
航空機の場合、フライトプランの提出時に飛行ルートに問題がなくても、例えば風に流されるなど上空の環境の影響を受けたり、機体に何らかの変化があったりすると、衝突の危険性が生じることがある。
AURORAは、例えば、このままでは他の機体と衝突する危険があると判断した場合、一方の機体について衝突回避ルートを計算してルート変更を指示する。そして衝突が回避されると元のルートに戻るように指示する。
FaroStarは2022年5月、AURORAの自動管制システムと連携できる装置を搭載したドローンを用いた衝突回避実験をNEXCO東日本と共同で実施した。自律飛行中のドローンに、別のドローンを意図的に近づけ、自動で衝突を回避できるかを検証した(図1)。4回行った実験(高度30~50m、延長700mの飛行経路)すべてにおいて、衝突を回避できることを確認したという。