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 2025年に開催される大阪・関西万博での空飛ぶクルマ(eVTOL機)の商用運航開始を目指し、大阪府や大阪市が社会実装に向けた取り組みを活発に進める一方で、東京都内での社会実装に向けた取り組みも始まっている。三菱地所、日本航空、兼松の3社は、東京都の「都内における空飛ぶクルマを活用したサービスの社会実装を目指すプロジェクト」の公募に提案し、採択されたことを受けてプロジェクトを始動した。プロジェクトの全体を取りまとめている三菱地所のコマーシャル不動産戦略企画部ビジネス戦略ユニット主事の西地達也氏に取り組みを聞いた。(聞き手:内田 泰=日経クロステック)

2022年8月に東京都のプロジェクトに採択されたことを発表しましたが、今後はどのようにプロジェクトを進めていく計画ですか。

 日本では、空の移動革命に向けた官民協議会を中心に2025年ごろからの商用運航の実現を目指していますが、我々もそれに向けてプロジェクトを進めていきます。2022年度は、東京都内のどこに離着陸場(Vポート)を造れるのか、市場規模やビジネスモデルはどうなるのか、などの調査や課題の洗い出しを実施します。建物が過密して立地する都内において、高密度・高頻度運航を実現するためのVポートの設置について課題整理などをします。

 2023年度にはヘリコプターによる運航実証を行います*1図1)。既存の緊急離着陸場を起点にどう飛べるのか、空域はどうなるのかなどを検証します。どうすれば、空飛ぶクルマを実際に飛ばせるかを見極めるのが最大の目標です。

*1 三菱地所が保有・運用する施設を中心に、2カ所のヘリポート設置を検討。各ヘリポートでの遊覧飛行やヘリポート間の移動・チャーター便を提供する予定という。

 そして2024年度には、実際に空飛ぶクルマによる運航実証や地上オペレーション(離着陸管理・シミュレーション、チェックイン・保安検査、周辺安全管理・監視)の検証を通じて課題や収益性などを評価します。

図1 実証の計画
図1 実証の計画
三菱地所、日本航空、兼松の3社による空飛ぶクルマの社会実装に向けた2023年度と2024年度の実証の計画(出所:三菱地所、日本航空、兼松)
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ところで、不動産開発の事業者である三菱地所は、空飛ぶクルマに関してどのようなビジネス構想を持っているのでしょうか。

 狙っているのは、Vポートの設置・運営のビジネスです。マネタイズは空港と同じで、Vポートを利用する運航事業者から離着陸料を徴収したり、機体の充電、メンテナンスなどでの付帯収入を獲得したりすることが見込めます。将来、Vポートが駅のような役割を果たすようになれば、周辺の不動産開発を手掛けることもできるでしょう。不動産価値を高める手段の1つとして、空飛ぶクルマのビジネスを今から研究しておく必要があるのです。

 一方で、都内では平地でVポートを設置できるスペースを探すのは難しいのが現実です。Vポートの設置場所として、ビルの屋上や駐車場、商業施設などが期待されており、当社のアセットを生かせる可能性があります。いずれにせよ、Vポート事業に最初に着手した企業がいいポジションを取れると考えています。

都内における空飛ぶクルマの社会実装のカギとなるのは何でしょうか。

 やはり、ビルの屋上をVポートとして活用できるかどうかです。もちろん、Vポートの設置を前提に設計された新築ビルを活用するのがベストですが、供給件数は限られるし、新築ビルだと完成が5年後になるかもしれません。やはり、既存ビルの活用は避けて通れない課題で、実際に検討に着手しています。Vポートの耐荷重や乗客の動線確保などの課題を研究しないといけません。

 また都内では空域調整の問題もあります。例えば、お台場周辺は羽田空港の特別管制空域内で、現状では空飛ぶクルマの定常運航ルートには使えません。これはニーズが大きいとみられている、空港から都市部への移動手段の提供に障壁になるかもしれません。つまり、今回のプロジェクトの目玉は、既存ビルの活用と管制空域内の飛行許可の実現にあると考えています。