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 NTTが「IOWN構想」の先兵として2022年度にも実装を始める、超大容量かつ超低遅延の通信基盤となる「APN(All Photonics Network)」。これまで垂直統合で構成されてきた光伝送装置を分離・オープン化し、コアネットワークに使われてきた機能の一部をユーザー拠点近くに配置するアーキテクチャーを目指す。実は、光伝送装置の分離とオープン化を推進するのはNTTだけではない。「最後の聖域」と言われてきた光伝送装置に、世界同時多発でオープン化のメスが入りつつある。

3つのステップで光伝送装置のオープン化が進展

 「サーバーやスイッチ、ルーターなどはオープン化によってコモディティー化が進んだ。光伝送装置にも、ようやくオープン化とコモディティー化の波が訪れている」

 NECネットワークソリューション事業部門フォトニックシステム開発統括部長の佐藤壮氏はこう語る。

 光伝送装置は大容量通信が必要な、通信事業者のコアネットワークやメトロネットワーク、データセンター間ネットワーク(DCI)などに使われている。「ROADM(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer)」と呼ばれる機器が光伝送装置の代表例だ(図1)。

図1 垂直統合型のROADM
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図1 垂直統合型のROADM
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図1 垂直統合型のROADM
左が富士通の製品、右がNECの製品(出所:富士通、NEC)

 ROADMは、光信号を波長で束ねて高速大容量通信を可能にするほか、束ねた波長から任意の光信号を柔軟に分岐/挿入することができる。「光スイッチ(WSS:Wavelength Selective Switch)」や合分波機、光信号と電気信号を変換する「トランシーバー」などの要素で構成する。

 ROADMは現状、「ベンダーごとにサイロ化しており、相互接続自体も難しいのが現状」と富士通フォトニクスシステム事業本部光ソリューション事業部シニアアーキテクトの長嶺和明氏は語る。高速大容量が求められる光伝送装置は、これまで相互接続性よりも性能競争が求められていたからだ。こうした事情から現状、光伝送装置の市場はベンダーによる垂直統合モデルが主流だ。ルーターやスイッチなどの他の通信機器と比べてオープン化の動きが遅れており、光伝送装置の市場は「最後の聖域」とも呼ばれてきた。

 そんな光伝送装置のオープン化は、3つのステップで進みつつある(図2)。

図2 光伝送装置のオープン化、3つのステップ
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図2 光伝送装置のオープン化、3つのステップ
(出所:日経クロステック)

 まず第1ステップが、2000年前後から始まったトランシーバー形状の規格化だ。1ギガビット/秒の速度に対応した「GBIC」と呼ばれる規格を皮切りに、「SFP」「XFP」「CFP」「OSFP」といった共通仕様のフォームファクターが登場している。ここに来て、共通仕様のフォームファクターを採用すれば、ROADMのトランシーバー部分を抜き差しして他社製品も利用できるようになってきたという(図3)。

図3「QSFP-DD」というフォームファクターに対応したNECのトランシーバー
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図3「QSFP-DD」というフォームファクターに対応したNECのトランシーバー
(出所:NEC)

 これらのトランシーバーのフォームファクターは、「MSA(Multi Source Agreement)」と呼ばれる、複数のメーカーの合意による規格化が主流だ。IEEEのような標準化団体による仕様化と比べ、スピーディーに最新技術を取り入れやすい利点がある。

 トランシーバーの規格化は、データセンター間ネットワーク(DCI)における光伝送装置の需要が高まっている点も後押ししているという。「光伝送装置において技術革新のスピードが速いのがトランシーバーや(トランシーバーを経由して光信号を送受信する)トランスポンダーの部分だ。データセンターは容量拡大の需要が旺盛。そのためトランシーバーやトランスポンダー部分のみを新しいものを使いたいというニーズがある」とNECネットワークソリューション事業部門フォトニックシステム開発統括部ディレクター開発部長の朝日光司氏は指摘する。

 2010年代に入り、これまでアナログだった光伝送技術に「デジタルコヒーレント」と呼ばれるデジタル技術が入ってきた点も、トランシーバー市場に変化をもたらしている。「デジタル化がコモディティー化を推し進める要因になっている」(NTT未来ねっと研究所主幹研究員の西沢秀樹氏)からだ。

 デジタルコヒーレント技術を採用するトランシーバーは当初、5×7インチ(12.7×17.78センチメートル)といった大型サイズだった。それがここに来て、小型化や低消費電力化が急速に進んでいるという。「テレビもデジタル化が進んでビジネスモデルが変わった。光伝送技術も同様に、コモディティー化の流れは止まらないだろう」と西沢氏は続ける。