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DAOのガバナンストークンについて

 DAO(Decentralized Autonomous Organization=分散型自律組織)という言葉自体は数年前から存在するものの、最近このDAOと称される取り組みが活発に行われている。なお、日本法におけるDAOの法的性質については議論があるが[11] 、本稿では割愛する。

 DAOではガバナンストークンと呼ばれる投票権が付与されたトークンが発行されることが多い。ただし、プロジェクトについて投票ができるトークンだからといって直ちには集団投資スキーム持分には該当しないと思われる。

 もっとも、仮に期中の配当がなかったとしても、DAOが目的とするプロジェクトが完遂(または中止)された際にDAOで保有していた財産をトークン保有者の間で分配する場合には、当該トークンは集団投資スキーム持分であると認定される可能性はあるだろう。

 この場合にも、DAOが真の意味で分散・自律しており、出資者の全員が出資対象事業に関与する場合と評価できるのであれば集団投資スキーム持分に該当しないこととなるが(金商法2条2項5号イ、金融商品取引法施行令1条の3の2)、実際のDAOではトークンだけ保有し議決権すら行使しない者がいることが多いことからすれば、このような評価は困難ではないだろうか。

PoSなどのステーキングサービスについて

 次に、冒頭で述べたPoSにも関連するステーキングサービスである。PoSを採用している暗号資産を購入し、暗号資産交換業者にデリゲート(委任)してステーキングを行って報酬を受け取る場合には、暗号資産交換業者へのデリゲート自体は「出資」に該当せず(または暗号資産交換業者の行為が「充てて行う事業」に該当せず)、暗号資産交換業者との関係にかかわる権利は集団投資スキーム持分に該当しないという整理もあり得る。

 もっとも、特に投資家が直接ステーキングを行う場合で、投資家がステーキングを行うことありきで発行者から金銭を対価にトークンを購入し、実際にステーキングを行って報酬を受け取るときに、発行者と投資家の間の一連の関係を捉えて、集団投資スキーム持分該当性を検討しなくていいかは、一考を要すると思われる。

会員権について

 会員権を表章するトークンなるものも近年では現れてきているが、そのようなトークンはどうだろうか。会員権に基づいて何らかの物品の給付やサービスの提供を定期的に受けられたとしても、会員が支出する金銭が、当該物品の給付やサービスの提供を受ける権利または当該権利を主な内容とする会員権に対する対価と評価できる範囲内に収まっているのであれば、出資対象事業から生ずる収益の配当とは言えず(同時に、金銭の支出を「出資」とも言えず)、集団投資スキーム持分には該当しないように思われる。

 もっとも、会員権の販売態様や支出された金銭との対価性、物品やサービスの特定性や換金可能性(容易性)、およびこれらを踏まえた会員(金銭の支出者)の意図・目的など、諸般の事情を総合考慮して慎重に事実認定を行って判断する必要はあるだろう。

転売利益のみを志向するものについて

 前述のとおり、金商法上の集団投資スキーム持分は、米国の「投資契約」と異なり、収益分配型の投資商品を念頭に置いている。そのため、少なくとも実務上は、当該持ち分の転売利益以外に保有者が利益を得る可能性がない場合には、収益の配当または財産の分配がない権利であるとして集団投資スキーム持分とは考えられていないように思える。

 もっとも世の中には、実体がないにもかかわらず、トークン自体が今後値上がるとして、いたずらに射幸心をあおり投資家にトークンを購入させるプロジェクトが存在する。

 日本の法制度上、それ自体の値上がりが期待されるトークンについて、資金決済法の暗号資産に該当する場合には、同法によって、暗号資産交換業者の関与が必要となるなど一定の保護が図られる。しかしながら、「資金決済法」という枠内でこれを規律したため、当該トークンが、販売価格、発行個数、移転可能性などの事情[12] を考慮した結果として、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ」(資金決済法2条5項1号)などの要件を満たさず、決済手段性が認められない場合には、「暗号資産」として規制されることもない。

 このようなトークンに金融規制を及ぼさなくてよいかについては、収益分配の権利はないが流通市場で取引される投資商品について規制対象とできるよう集団投資スキーム持分概念をより包括的なものへと改正すべきだとする説[13] や、企業家的努力による価値の増加を「収益の配当・財産の分配に対する権利」に読み込むべきだとする説[14] などが一定の参考になるだろう。

NFTについて

 最後に、NFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)に関するビジネスについても述べる[15] 。NFTの発行には金融規制がかからないといわれることが多い。これはFT(Fungible Token=代替性トークン)については前述のとおり決済手段性が認められる場合には暗号資産に該当して金融規制がかかる一方で、NFTであれば決済手段性が認められず暗号資産に該当しないと解されるからと思われる。しかしながら、集団投資スキームはその名称にもかかわらず1対1の投資契約についても対象となる[16] ことから、非代替的なものであっても、その性質によっては集団投資スキーム持分に該当し得る。

 なお、そもそも集団投資スキーム持分に該当するトークンが例えばそれぞれ異なる絵画データと結びついていたとしても、集団投資スキーム持分の観点からは非代替と評価するのは不自然であろう。

 そのほか、フラクショナルNFTと呼ばれる、概説すれば高額なNFTを多数の者で分割して購入する仕組みについて、預託等取引に関する法律は「物品」と「特定権利」を対象としていることから直ちには同法の規制対象とならないと思われるが[17] 、脱法目的など一定の場合には集団投資スキーム持分に該当するとして金商法上の規制を及ぼす必要性が生じる可能性はあると考えられる[18]

求められる対話

 本稿を含む本連載は「ブロックチェーンは人類を幸せにするのか」というテーマで書かれている。冒頭に記載したとおり、諸外国でもトークンの法的性質をどのように解すべきか激しく議論がされており、また上記のとおり日本法においてもその性質は単純ではない。特にブロックチェーン技術によって国境(法域)を越えた価値移転が行われやすくなっていることもあり、ブロックチェーンが人類を幸せにするものであるために、その法制度などについても、マルチステークホルダー間の対話[19] が今後も求められている。

参考文献
[1] SEC, SEC Charges Former Coinbase Manager, Two Others in Crypto Asset Insider Trading Action, https://www.sec.gov/news/press-release/2022-127.
[2] CFTC, Statement of Commissioner Caroline D. Pham on SEC v. Wahi, https://www.cftc.gov/PressRoom/SpeechesTestimony/phamstatement072122.
[3] Mason Marcobello(山口・佐藤訳)「イーサリアムの『The Merge』とは?【基礎知識】」Coindesk Japan, https://www.coindeskjapan.com/150226/.
[4] Adam Levitin, (2022, July 24), https://twitter.com/AdamLevitin/status/1550990967670554624?s=20&t=b-Vgdeg3i6UKjoHSA6b63w
[5] Frederick Munawa, What’s at Stake: Will the Merge Turn Ether Into a Security?, https://www.coindesk.com/tech/2022/08/10/whats-at-stake-will-the-merge-turn-ether-into-a-security/
[6] SEC v. W.J. Howey Co., 328 U.S. 293 (1946)
[7] Howeyテストについては、山本雅道『アメリカ証券取引法入門(改訂版)』(第一法規、2019年)37ページ、224ページ参照。
[8] SEC Strategic Hub for Innovation and Financial Technology, Framework for “Investment Contract” Analysis of Digital Assets, https://www.sec.gov/corpfin/framework-investment-contract-analysis-digital-assets
なお、日本語の解説記事については、鳥毛拓馬「SEC、デジタル資産に関する枠組みを公表」(2019年6月17日付大和総研レポート)、 https://www.dir.co.jp/report/research/law-research/securities/20190617_020847.pdf
[9] 大越有人・岩井宏樹「集団投資スキーム持分該当性の実質的認定」(金融法務事情No.2182、2022年)46ページ参照。なお、後述のとおり、出資者の全員が出資対象事業に関与する場合(金商法2条2項5号イ)など、一定の適用除外に該当する場合には集団投資スキーム持分には該当しない。
[10] 河村賢治「ICO規制に関する一考察」(金融法務事情No.2095、2018年)52ページ参照。
[11] 柳明昌「DAOの法的地位と構成員の法的責任」(法学政治学論究Vol.132、2022年)23-49ページ参照。
[12] 2022年6月7日閣議決定の「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太方針2022)では、「暗号資産について…決済手段としての経済機能に関する解釈指針の作成などを行う」とされ、また2022年8月31日金融庁公表の「2022事務年度金融行政方針」では、「ブロックチェーン上で発行されるアイテムやコンテンツ等の暗号資産該当性に関する解釈の明確化を進める。」とされており、今後、事務ガイドライン等で解釈指針が示されることになると思われる。
[13] 河村・前掲52ページ参照。なお、柳明昌「暗号資産の有価証券該当性:SECの所説を中心として」(法学研究 Vol.93, No6、2020年)23-24ページでは、「トークンの価値上昇分による転売利益は、それがプロモーターなど特定の者の努力によると評価できるならば、収益概念に含まれると解すべきである」と主張される。
[14] 黒沼悦郎「ユーティリティトークンの有価証券性」(NBL No.1158、2019年)11ページ参照。
[15] NFTの技術や特性について、阿部涼介「NFTの技術とその特性を知る、本当にデジタル権利の表明に使えるのか」(日経クロステック、2022年)参照。
[16] 松尾直彦『金融商品取引法〔第6版〕』(商事法務、2021年)71ページ参照。
[17] 落合英紀『預託等取引に関する法律の解説』(金融財政事情研究会、2022年)14ページでは、「物品については、有体物である動産と解されるところ、有体物を介さずに抽象的な財産的価値として取引がなされた場合は、物品の預託に当たらず、預託等取引法の規制の対象にはならない。」とされる。
[18] 預託法の規制と集団投資スキームの関係性などについては、大越・岩井・前掲45-51ページ参照。
[19] ブロックチェーンコミュニティーの持続的な発展のため、すべてのステークホルダーの共通理解醸成や直面する課題解決に向けた協力を行うためのオープンかつ中立的な場を提供することを目的としたBGINという団体も存在する。https://bgin-global.org/
清水 一平
TMI総合法律事務所 弁護士
清水 一平 慶応義塾大学法学部法律学科卒業、東京大学法科大学院修了。2019年TMI総合法律事務所入所。 2020年より金融庁総合政策局総合政策課フィンテック室、2022年より金融庁総合政策局フィンテック参事官室イノベーション推進室および総合政策課で勤務し、主にFinTech企業や金融機関の新規事業に関する法令相談対応や、海外金融事業者の日本進出の支援を行う。現在は、FinTechをはじめとする金融規制や、金融取引に関する法令相談に幅広く対応。