近年、米大手IT企業が提供する中央集権的な仕組みから脱却した新しいサービスを開始しようとする動きが活発になっており、そのようなサービスを運営するための組織として、国内外でDAO(Decentralized Autonomous Organization、自律分散型組織)の活用可能性が検討されている。米国ワイオミング州で2021年7月1日の州法の改正[1]によりLLC(日本における合同会社に近い形態の法人)の特別な類型としてDAOの設立が認められたことも、一部で話題となった。
日本では現在、DAOの法的位置付けについて明確な規定はない。またDAOにおいてはガバナンストークン(保有者がDAOの意思決定において議決権を行使することができるトークン)を発行するのが通常であるが、このガバナンストークンの法的性質や保有者の権利義務の内容についても、明確に規定した法令は存在しない。
そこで本稿では、現在の日本における法制度の下でDAOを組成することの可否につき、紙幅の許す範囲で簡潔に考察したい。
なお、本稿の内容はあくまで筆者個人の見解であって、筆者の所属する(または所属していた)組織の見解を示すものではない。
「法定されていない=自由に組成できる」は誤り
既に述べたとおり、日本ではDAOやガバナンストークンについて明確に規定した法令は存在しない。このことから一部では、DAOを「従来の組織よりも緩やかな法規制のもと、自由に運営できる組織」であるとの誤解が生じている様子も見受けられる。だが実際には、DAOやガバナンストークンについて明確に規定した法令の不存在は、必ずしも「日本においてDAOの組成やガバナンストークンの発行を自由に行うことができる」ことを意味しない。
まず法人法定主義(民法33条)に基づき、DAOを「法人」として組成するのであれば、必ず既存の法律に定められた形式で組成する必要がある。これ以外の形式による法人の組成は一切認められない。
他方、法人ではない組織については法人でいう民法33条のような規定はないものの、法令適用の場面においては、基本的にはこれまでに法や判例法理が認めてきた非法人の組織形態にカテゴライズする形で組織の性質が決定される可能性が高いと考えられる[2]。
したがって、現時点における日本の法制度の下でDAOの組成が可能か検討するに当たっては、既存の組織形態を利用して組成することを念頭に、各組織形態の特徴を比較検討することが有益であると考えられる。以下では、既存の組織形態のうちDAOに比較的近いと考えられるものについて、DAOの特徴と各組織形態の特徴を比較しながら、DAOの組成に利用できる可能性がある組織形態が存在するか、検討してみる。
DAOの主要な要素とは
DAOについては画一的な定義や明確な共通認識があるわけではないものの、典型的なDAOとしてイメージされる組織においては、通常以下に挙げるような要素を備えていると考えられる。
以下では、上記の主要な要素を満たす組織形態を日本の法制度の下で組成することは可能かという点に加え、DAOの組成および運営を困難にする要素がないかという観点からも検討を行う。