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 本連載の第7回では、ブロックチェーン技術を活用した事業に各国の証券規制がどこまで及ぶかについて簡単な説明を試みた。

 今回は、米国においてトークンの証券該当性に関する新たな裁判所の判断が示されたことから、当該事案を参考にしつつ米国での議論を紹介するとともに、日本の暗号資産・有価証券規制との関係性などについても若干の考察を述べたいと思う。

 なお、本稿に記載されている事項は、あくまで筆者個人の見解であって、筆者の所属する(または所属していた)組織の公的な見解を示すものではない。

 2022年11月7日(現地時間)、米国ニューハンプシャー州連邦地方裁判所は、連邦証券法の下でいかなるものが証券に該当するかを検証する事案に関して、米LBRY(ライブラリー)を訴えていた米証券取引委員会(SEC:Securities and Exchange Commission)を支持する略式判決(以下「本判決」)を下した[1]。これは、2021年3月29日に、LBRYが証券法第5条に違反して無登録の証券を販売したとしてSECが提起していた訴え[2]に関連する略式判決である。

 LBRYは、その証券とされるLBCと呼ばれるブロックチェーン上のトークンは有価証券ではなく、証券法に準拠する必要はないと反論し、LBCはLBRYブロックチェーンの重要な構成要素であるデジタル通貨として機能すると主張していた。またLBRYは、SECがLBCを証券として扱おうとする試みは、LBCの販売が証券法の対象となることをLBRYに公正に通知していないため、適正手続を受ける権利を侵害するとも主張していた。

図●判決の「分析」の構造
図●判決の「分析」の構造
(出所:筆者作成)
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LBRYはLBCを証券として販売したか

 まず、LBRYがLBCを証券として販売していたかという点に関し、本判決は第7回でも概説したHowey(ハウィー)テストを参照している。また、Howeyテストについて、「この定義は、硬直的というよりむしろ柔軟な原則を体現しており、利益を約束して他人の資金を利用しようとする人々によって考案された無数の可変のスキームに適応することができるものである」とする判示を引用している[3]。加えて、「審理の焦点は、取引の形式よりもむしろ取引の客観的な経済的実態にある」[4]とし、「Howeyテストの下では、裁判所は、購入者が『期待させられた』ものに基づき、提供された商品又は取引の性質について客観的な審理を行う」[5]としている。

 その上で、Howeyテストの(第7回では4要件に分けたが)(1)金銭を出資し、(2)共同事業を行い、(3)事業者又は第三者の努力によってのみ得られる利益を期待すること、という要件の(3)のみが本判決の事案では争点になっているとし、判断すべき問題は、LBRYのLBCの提供をめぐる経済的実態が、投資家に「他人の起業的又は経営的努力から得られる利益に対する合理的期待」を抱かせたかという点としている。

検討された3つの項目

 そして上記の点を踏まえ、本判決は「1. 購入希望者に対するLBRYの説明」、「2. LBRYのビジネスモデル」、「3. LBCの消費的用途」という項目を立てつつ、LBCの証券該当性を検討している。

 「1. 購入希望者に対するLBRYの説明」では、「LBRYがLBRYネットワークの開発を管理し続けることによりLBCの価値が増大すると潜在的投資家に合理的に期待させた」とするLBRYの複数の説明に関するSECの指摘は正しいとする。本判決中は、SECにより指摘されたLBRYの投資家に対する説明の具体例を複数挙げ、その認定をしている。LBRYは、LBCの購入希望者の一部にはLBRYがLBCを投資としては提供していないことを通知したという事実なども主張したが、本判決は、「免責条項は取引の客観的な経済的実態を覆すことはできない」[6]とする。

 次に、「2. LBRYのビジネスモデル」では、本判決は、仮に上記のLBRYによる説明がなかったとしても、LBRYのビジネスモデルをよく知る合理的な投資家であれば、関連性(経営的努力と起業的努力によりLBCの価値が増加すること)を理解したとする。さらに本判決は、LBRYが何億ものLBCを自社で保有することで、自社とLBC購入者のためにそのブロックチェーンの価値を向上させるたゆまぬ努力をする意欲があることを示すことにもなるとする。そして、この構造は、合理的な購入者なら誰でも理解できるものであり、LBCの購入者は、LBRYのたゆまぬ努力の結果として、自分たちもLBCの保有から利益を得られると期待するようになるとする。

 そして「3. LBCの消費的用途」で本判決は、LBRYの主な反論は(Ⅰ)LBCはLBRYブロックチェーン上で使用するために設計されたユーティリティートークンであり、(Ⅱ)LBCの購入者の中には、投資として保有するより、少なくとも部分的には使用目的で購入した者がいる、というおおむね争いのない2つの事実から出発すると述べる。

 しかし本判決はこの反論に対し、判例法は消費的用途と投機的用途の両方を持つトークンが投資契約として販売され得ないことを示すものではないとし、一部のLBCの購入が消費的意図で行われたというだけではSECの主張を否定することはできないとする。またそうでなければ証券法は、トークンが何らかの消費的機能を有する場合、「利益を約束して他人の資金を利用しようとする人々によって考案された無数の可変のスキーム」[7]に適用できないことになるとする。したがって、LBRYブロックチェーン上で使用するためにLBCを購入したというLBC保有者の一部の供述は、LBRYが証券としてそれを提供したかを判断する上で限られた関連性しかないとする[8]

 最後に本判決は要約として、記録された証拠によれば、LBRYはLBCを同社のLBRYネットワークの開発を通じて時間とともに価値が増大する投資として宣伝していたとし、何人かの購入者が部分的に使用目的でLBCを取得したかもしれないが、このことは、LBRYがLBCを証券として提供していたことを立証する客観的な経済的実態を変えることはないとする。