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 「未来投資会議は、成長戦略の新たな司令塔だ」。安倍晋三首相(当時)は2016年9月、総理大臣官邸で開催した「未来投資会議」第1回会合でこう語った。同会議は安倍首相が議長を務め、第2次安倍政権での成長戦略を象徴する存在になった。

写真● 第1回未来投資会議の様子
写真● 第1回未来投資会議の様子
(出所:首相官邸Webサイト)
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 以前に掲載した「編集長の眼」では、2012年12月から約8年にわたり続いた第2次安倍政権における政府システム関連戦略を概括した。本記事では同政権の成長戦略としてのデジタル産業振興策を振り返りたい。

参照: (編集長の眼)安倍元首相死去、同政権のIT施策を振り返る

「官民対話」の成果がきっかけ

 この未来投資会議は、これまで政府の成長戦略の策定を担っていた「産業競争力会議」と、企業に賃上げや設備投資を促す「未来投資に向けた官民対話」を一本化したものだ。その柱の1つに、人工知能(AI)やロボット、ビッグデータ、IoT(インターネット・オブ・シングズ)を活用して産業の生産性を高め、新市場を創出するとの目標があった。

 政府が同会議を立ち上げた背景には、前身となる「未来投資に向けた官民対話」での成功体験があった。2015年11月に開催した官民対話で安倍首相は「東京五輪が開催される2020年までに無人自動走行サービスを可能にする」「早ければ3年以内にドローンを使った配送サービスを可能にする」と宣言。これがきっかけになり、自動運転では2017年までに公道での実証実験を可能にする規制緩和を検討、ドローンでは航空法の運用見直しにつながった。

 官民対話を継承した未来投資会議でも、達成目標と時期を政府が定め、逆算して各省庁に規制緩和の検討を指示する「目標逆算ロードマップ方式」を採った。企業にとっては、ロードマップから規制緩和の時期を推測し、研究開発や設備投資の方針を決定できる利点がある。

 未来投資会議は安倍政権下で、政府の方針を明確にし、改革にお墨付きを与える役割を果たした。主に経済産業省出身の官邸官僚がリードする形で、府省庁にまたがる規制改革の議論を進めた。

 具体的には、米Google(グーグル)や米Facebook(フェイスブック、現メタ)など巨大IT企業に対する規制強化、銀行間手数料の引き下げ、スタートアップ支援策、AI人材の育成などが議論の俎上(そじょう)にのり、実際に政策の遂行につながった。

 政府の成長戦略を担う会議の運営体制は、その後も首相の個性やリーダーシップのあり方を色濃く反映したものになった。2020年に政権を引き継いだ菅義偉首相(当時)は「未来投資会議」を廃止し、官房長官をトップとする「成長戦略会議」を設置。続く岸田文雄首相は同会議を廃止し、再び首相を議長として「新しい資本主義実現会議」を設置した。