全1384文字

 循環経済(サーキュラーエコノミー)へかじを切った欧州。その本気度を示す1つの挑戦が、単一の材料で製品を造る「モノマテリアル設計」だ。ドイツEvonik Industries(エボニック・インダストリーズ、以下Evonik)とドイツBASFの2社が、それぞれ同一種類の樹脂で開発・設計した自動車向けシート(以下、自動車シート)のプロトタイプを世界最大の樹脂・ゴムの展示会「K 2022」(ドイツ・デュッセルドルフ、2022年10月19~26日)で披露した。

図1 モノマテリアル設計で造った自動車シートのプロトタイプ
図1 モノマテリアル設計で造った自動車シートのプロトタイプ
Evonikが展示した。補強用の骨組み以外は「オールPA(ポリアミド)」で製作した。廃車時に骨組みを抜けば、比較的容易にリサイクルに回せる。Evonikはチャイルドシートと説明するが、大人が十分に座れる大きさだった。(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 現行の自動車シートはさまざまな材料から成り、樹脂についても複数の種類が採用されている。樹脂の特性に応じて使い分ける適材適所の設計の結果だが、半面、樹脂のリサイクルを阻む原因にもなっている。リサイクルするには同一種類の樹脂ごとに分けて回収しなければならないが、これが難しい。廃車時の解体作業に手間が掛かり過ぎて採算が取れなかったり、そもそも樹脂の種類ごとに解体できなかったりする課題があるからだ。

 この課題を解決するためのアイデアが、モノマテリアル設計である。製品が同一種類の樹脂でできていれば、使用済み後に解体や分離回収の手間をそれほど掛けずにリサイクルに回せる。

「オールPA」のシート

 図1が、Evonikが出展した自動車シートのプロトタイプ。座面と背もたれのフレームから布地、クッションまでの全てにポリアミド(PA)を採用した。フレームの内部には補強用の金属の骨組みを、締結用にはねじを使っているが、解体時にこの骨組みとねじを抜き出せば、残りを丸ごと破砕して再び自動車シートを造る材料としてリサイクルできる(図2)。

図2 リサイクルの容易性をうたうイメージ映像
図2 リサイクルの容易性をうたうイメージ映像
同一種類の樹脂でできているため、金属の骨組みを抜けば、シートを丸ごと破砕してそのままケミカルリサイクルに持ち込める利点を強調した。(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 採用したのは、PA12や長鎖PA(LCPA)、ポリフタルアミド(PPA)、PA1010など。このうち、PA12をフレームに、LCPAの発泡材をクッションに使用している。布地には、ヒマシ油由来のバイオPAを採用した。使用済み後は原料にまで戻して各種のPAに再生するケミカルリサイクルの実現を目指しているという。なお、フレームの成形には3Dプリンターを使った(図3)。

図3 オールPA製自動車シートの背面
図3 オールPA製自動車シートの背面
白色に見える部分がフレーム。金型を使わずに3Dプリンターで成形した。(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]