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 電気式射出成形機や植物由来・生分解性樹脂であるポリ乳酸(PLA)の射出成形の分野で世界をリードする日精樹脂工業。同社は今、イタリア最大手の射出成形機メーカーNEGRI BOSSI(ネグリ・ボッシ)を買収したことで欧州市場で注目を集めている。なぜ買収に踏み切り、それによって何を得たのか。世界最大の樹脂・ゴムの展示会「K2022」(ドイツ・デュッセルドルフ、2022年10月19~26日)で同社の依田穂積社長を直撃した。

NEGRI BOSSIを買収したことで欧州でも大きな話題になっています。

依田社長:当社は2020年にNEGRI BOSSIを買収しました*1。70年以上の歴史を持つ老舗の射出成形機メーカーです。欧州市場のパートナーを探しており、手を挙げていた複数の企業からこの企業を選びました。

日精樹脂工業の依田社長
日精樹脂工業の依田社長
イタリアの最大手の射出成形機メーカーであるNEGRI BOSSの買収に踏み切った。(写真:日経クロステック)
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*1 2022年1月までにNEGRI BOSSIの株式の75%を取得して子会社化。2022年11月に全株式の取得を完了した。

 NEGRI BOSSIは大型機に強く、型締め力が7000tf (約69MN)の射出成形機もラインアップとしてそろえています。建築用のパレットやコンテナ、水をためるタンクといった大物部品を一発で成形できる機械です。自動車分野も得意で、バンパーやインスツルメントパネルまで造れる射出成形機を持っています。型締め力が1300tf(約13MN)までの成形機しかラインアップになかった当社にとっては、「大物の世界」が広がりました。

海外企業を買収した場合、言葉も考え方も違って日本企業には経営が難しいと一般に言われています。買収はうまくいっているのですか。

依田社長:当初はNEGRI BOSSIの社員も警戒していました。というのも、当社が買収する前に同社では経営者が何度も変わっており、「今度こそ飲み込まれるかもしれない」という危機感を覚えていたからです。彼らが愛着を覚えているNEGRI BOSSIの名前が消えてしまうのではないかと危惧する声もありました。

 そこで私は、「名前も残すし、技術も残す」とNEGRI BOSSI側に丁寧に説明しました。我々はものづくりを大切にしている企業であり、社内をひっかきまわした末に脆弱化させるたちの悪いファンドなどとは違うと。うれしかったのは、「日精樹脂工業に買収されて初めて(この買収は)いいねと感じた」とNEGRI BOSSI側から言われたことです。彼らにも「ものづくり魂」がある。それが日精樹脂工業が持つものづくり魂と共鳴したのだと捉えています。

日精樹脂工業とNEGRI BOSSIの間で、ものづくりの考え方にはどのような違いがありましたか。

依田社長:NEGRI BOSSIはミラノを拠点としています。北イタリアにある企業だけあって、すごいと感じました。彼らは何かものを造る前に、枕ことばのようにこう言うのです。「美しいか、そうではないか」と。美意識がまるで違うのです。おかげで機械のカバー1つとっても大きく変わりました。世界で最もきれいな射出成形機だと自負しています。

NEGRI BOSSIの射出成形機
NEGRI BOSSIの射出成形機
(写真:日経クロステック)
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 一方で当社はこれまで「機能的かどうか」しか考えていませんでした。カバーなんて何でもいい。むしろ、外観デザインを高めるとコストが上がるのではないかと気にしていました。でも、NEGRI BOSSIはそうではない。効率や生産性を追求しながら、同時に美しくなければならないと考えるのです。いわば、「ものづくりに美意識が生きている」といった感じです。

 この美意識は貸借対照表(BS)にも損益計算書(PL)にも載りませんが、当社にとっては、とてつもなく大きな資産です。実に良い買い物をしたと私は思っています。日本企業である当社には気づかないもの、忘れていたものを手に入れることができたからです。「安ければよい」「性能が良ければよい」というだけでは欧州では通用しないということを、NEGRI BOSSIは改めて当社に気づかせてくれました。