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 東京海上日動火災保険の村野剛太IT企画部部長は2022年6月14日、日経BP総合研究所イノベーションICTラボ主催のエグゼクティブ会議「ITイノベーターズ会議」の基調講演に登壇した。同社は、何もかもを新しく変える「維新」を推進中だ。「東京海上日動火災DXの今と未来~東京・銀座発の維新、その中身と手応え~」と題する講演で村野氏は、商品やサービス、ビジネスモデルの革新にとどまらず、組織や企業文化・風土の変革まで視野に入れたDX(デジタルトランスフォーメーション)の全容を明かした。

東京海上日動火災保険 理事 IT企画部部長の村野剛太氏
東京海上日動火災保険 理事 IT企画部部長の村野剛太氏
(撮影:井上裕康)
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 村野氏は冒頭、経済産業省の「DXガイドライン」にあるDXの定義を引用し、「本当にこれをできるのだろうか?」と問いかけた。DXを、単にデータやデジタルを活用する取り組みだと割り切れば、実践するのは何も難しくない。だが、DXガイドラインはDXを次のように定義している。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

 村野氏はDXの真の姿を「もはやデジタルトランスフォーメーションと呼べる世界ではない。すべてが改まって新しくなる『維新』だ」と断言。自身に課された役割について、140年あまりの歴史を持つ東京海上日動火災で「維新を起こすのが使命だと考えている」と続けた。

結果を素早く把握し、未知の領域で勝つ

 東京海上日動火災は維新の実現に必要な要素を「A:Agile」「B:Business」「C:Cloud」「D:Data/Digital」の大きく4つの切り口で整理している。

 最初の「A:Agile」は言うまでもなく、アジャイル開発のことである。ソフトウエアや新ビジネスを素早く生み出す開発手法として、多くの企業が取り入れている。東京海上日動火災は、2019年からビジネス部門向けにアジャイル開発のトレーニングなどを始めた。現在は、IT部門やその協力会社など約300人に、ビジネス部門100人程度を加えた総勢400人体制でアジャイルによるビジネス開発を推進している。

 この「A:Agile」は、2つめに挙げた「B:Business」と密接な関係にある。村野氏は「結果を早く知るための、たった一つの方法」と位置付けている。

 東京海上日動火災のビジネスは、「いざ」というときの備えとして社会に貢献してきた保険ビジネスから、事故などが起こる前から「いつも支える」ビジネスへと領域を広げている。こうした未知の世界で成果を上げるには「結果を早く知ることが重要だ」と村野氏は説く。

 ビジネスには「判断・決定」するスピード、「(商品やサービスを)形にする」スピード、「結果を知る」スピードの大きく3種類が求められる。従来は初めの2つの高速化が重要視され、結果を知るのは最後だった。しかし、「この順番を変えてみたらどうか」(村野氏)と発想転換した。アジャイル開発で早く結果を知り、それを基に大きな投資をするか判断・決定するという流れに変えるのだ。

アジャイル開発は「結果を知るスピード」を重視したビジネス開発手法
アジャイル開発は「結果を知るスピード」を重視したビジネス開発手法
(出所:東京海上日動火災保険 村野氏の講演資料より)
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 「結果が先に分かっていれば、どのようなものをつくり、何を提供すべきか、どこにどれだけ投資すればよいかが分かる」と村野氏は語る。加えて、早い段階で結果を知ることができれば、その後の「状況の変化に即応しやすくなる」(同)。だからこそ、いち早く新ビジネスを世に出せるアジャイル開発を、「結果を早く知るための、たった一つの方法」として村野氏は重視している。