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 デジタルトランスフォーメーション(DX)によって十分な成果を得られた企業はまだ少ない。その原因として指摘されるのは、「祭り」と皮肉られるほどたくさんのPoC(概念実証)を実施していながら、そこから先に進めない「PoC止まり」の状況である。

 では、PoCで終わらせないために、何をすべきか――。今回の「ITイノベーターズ会議」では、約40人のエグゼクティブメンバー(幹事会員)がこのテーマについて熱いディスカッションを繰り広げた。

「ITイノベーターズ会議」のディスカッションの様子
「ITイノベーターズ会議」のディスカッションの様子
(撮影:井上裕康)
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 会議の冒頭、「DXをPoCで終わらせないために、特に大切な項目は何か」というオンラインアンケートを実施した。「強力なリーダーの存在」や「メンバーの本気度」、「失敗を許容する文化」などの選択肢の中から、最も多くのエグゼクティブメンバーが選んだのは「目的の明確化」だった。

 JFEスチール専務執行役員の新田哲氏は、PoCが失敗に終わる典型的なパターンとして、目的や課題が不明確な状態で進めてしまうケースを挙げた。どういった課題を解決するかを明確にしなければ、どのようなソリューションを適用すべきかさえも分からない。それにもかかわらずPoCに臨み、無理やりソリューションを押し込もうとする例が見られるという。そのうえで新田氏は、「課題を因数分解して粒度を細かくするアプローチ」の必要性を強調した。因数分解すると、「デジタル技術だけでは解決できない課題も見えてくる。そこも含めて対策を組み合わせ、課題全体を解決していくアプローチが必要だ」(新田氏)。

 PoCに関して、三井物産執行役員デジタル総合戦略部長の真野雄司氏が「一生懸命にやっている」と紹介したのは、PoCに取り組む前に実施する徹底した「壁打ち」だ。ここで言う壁打ちとは、事業部門とIT部門が一緒に、アイデアが本当に機能するか検討し煮詰めることを指す。「アイデア段階で目的が明確になっているものはそれほど多くはないが、壁打ちをしているうちに次第にはっきりしてくる」と真野氏は話す。徹底した壁打ちには、PoCで費用を投じる前に目的が不明確なアイデアをふるい落とす効果が期待できる。

ITイノベーターズ会議(2022年6月開催)で議論した「PoCで終わらせないDX戦略」のポイント
ITイノベーターズ会議(2022年6月開催)で議論した「PoCで終わらせないDX戦略」のポイント
(撮影:井上裕康)
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