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 実用化にはまだ遠い量子コンピューターをいかに強い産業に育て、メリットを享受するか。関連技術や人材、知見が世界中の企業や研究機関などに散在する中、これらを効果的に集合・マッチングさせて育てることが重要だ。2022年7月13、14日に東京で開催された「Q2B22 Tokyo」でも産官学の連携が大きなテーマになった。

 量子コンピューターは現在、実用化を目指してハードウエアやソフトウエアの開発が進められている状況だが、それと並行して量子コンピューターの応用領域などを開拓する「社会実装」の動きが、各国政府や民間企業の集まりである産業化コンソーシアムの手によって始まっている。

2030年までに国内の量子技術利用者を1000万人に

 Q2B22 Tokyoの基調講演には、慶応義塾の伊藤公平塾長が登壇。伊藤塾長が策定に関与し、政府が2022年4月に発表した「量子未来社会ビジョン」について解説した。伊藤塾長は「量子技術を社会経済システム全体に取り込む。それがすべてだ」と語り、量子未来社会ビジョンの目的が量子技術の社会実装にあると強調した。

慶応義塾の伊藤公平塾長
慶応義塾の伊藤公平塾長
(写真:日経クロステック)
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 日本政府は2年前の2020年に量子技術の振興策である「量子技術イノベーション戦略」を策定した。しかしその直後、米Google(グーグル)や米IonQ(イオンQ)などが、量子コンピューターを2030年までに実用化するといった野心的なロードマップを発表するなど、量子コンピューターを取り巻く情勢は急変した。そこで政府は戦略を見直し、新しい戦略として量子未来社会ビジョンを策定した。

 量子未来社会ビジョンは、2030年までに国内の量子技術利用者を1000万人にまで増やし、量子技術による生産額を50兆円規模にする目標を掲げる。さらに、量子分野で企業評価額が1000億円を超える未上場スタートアップ企業、つまりはユニコーン企業を創出する考えだ。

 目標の達成に向け、2023年度には大阪大学の量子ソフトウエア研究拠点で初の国産量子コンピューターを稼働し、テストベッドとして公開する計画だ。理化学研究所量子コンピュータ研究センターの中村泰信センター長が開発を進めてきた超電導方式の量子ビットを搭載する。これによって、国産実機による量子ソフトウエア開発が可能になる。伊藤塾長は「最先端の量子技術のテストベッドで、新産業を作っていく」と意気込みを述べた。

 量子コンピューターを巡る状況が、基礎研究段階から応用研究段階に移りつつあるわけだが、そのトレンドはデータからも明らかなのだという。Q2B22 Tokyoで講演したValuenexの中村達生CEO(最高経営責任者)は、自社が行った特許情報のビッグデータ解析に基づいて「量子コンピューターにおける研究開発の重心は基礎研究、ハードウエアの領域からソフトウエア、アプリケーションといった応用領域へと動いている」と指摘した。

Valuenexの中村達生CEOは量子コンピューターの研究領域が基礎から応用に移りつつあることを指摘した
Valuenexの中村達生CEOは量子コンピューターの研究領域が基礎から応用に移りつつあることを指摘した
(写真:日経クロステック)
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世界各国で産業化コンソーシアムが設立

 量子コンピューターの社会実装に関しては、産官学の当事者が集う産業化コンソーシアムが大きな役割を担う。米国では早くも2018年に産業化コンソーシアムである「Quantum Economic Development Consortium(QED-C)」が発足し、2021年には欧州の「European Quantum Industry Consortium(QuIC)」、韓国の「未来量子融合フォーラム」、ドイツの「Quantum Technology&Application Consortium(QUTAC)」、英国の「UKQuantum」が相次いで設立された。

量子技術の産業化に向けた動きが各国で相次ぐ
量子技術の産業化に向けた動きが各国で相次ぐ
(作成:日経クロステック)
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 そして日本でも2021年9月に「量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)」が発足した。Q2B22 Tokyoに登壇したQ-STARの岡田俊輔実行委員長は、量子コンピューターのユースケース創出が「活動の本丸」と説明した。

Q-STARの岡田俊輔実行委員長
Q-STARの岡田俊輔実行委員長
(写真:日経クロステック)
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産業界が連携してユースケース創出

 Q-STARは量子技術の分野別に「量子波動・量子確率論応用部会」「量子重ね合わせ応用部会」「最適化・組み合わせ問題に関する部会」「量子暗号・量子通信部会」を設け、それぞれに関心を持つ企業らが集う。共同プロジェクトの実施や結果の共有を通してユースケースの創出と技術レベルの向上を目指す。岡田実行委員長は部会の活動でQ-STARを「ユースケースのデパートにする」と意気込む。