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 社会をよりよくしたい──。日建設計の畑島楓氏(28歳)は力強くビジョンを語る。入社して数年目の若手社会人のなかには、大きなビジョンはあっても目の前のノルマを達成するのに精いっぱいで行動に移せないもどかしさを抱えている人も少なくないだろう。筆者もその1人だ。

 畑島氏は入社してまだ4年目だが、日建設計のNAD(NIKKEN ACTIVITY DESIGN lab)でコンサルタントとして働く傍ら、休日はトランスジェンダーの当事者としてLGBTQ(性的少数者)を社会に理解してもらう活動に取り組む。双方でビジョンの実現に突き進んでいる。

畑島 楓(はたしま かえで)1993年生まれ、2019年3月慶応義塾大学大学院を修了。19年4月に日建設計に入社、新領域開拓部門新領域ラボグループNAD(NIKKEN ACTIVITY DESIGN lab)でコンサルタントを務める。全ての人たちが心地よく利用できることを目指したトイレの企画を進めている。ファッションモデル「サリー楓」としても活躍(写真:稲垣 純也)
畑島 楓(はたしま かえで)1993年生まれ、2019年3月慶応義塾大学大学院を修了。19年4月に日建設計に入社、新領域開拓部門新領域ラボグループNAD(NIKKEN ACTIVITY DESIGN lab)でコンサルタントを務める。全ての人たちが心地よく利用できることを目指したトイレの企画を進めている。ファッションモデル「サリー楓」としても活躍(写真:稲垣 純也)
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 日建設計のNADはブランディングやコンサルティングなど企業が抱える課題の解決を担う組織だ。畑島氏はこれまで都市計画やオフィス設計をするうえでの要件定義などを担当してきた。

 2021年6月にリニューアルオープンした「明治記念館」では、プロジェクトメンバーの1人として事業モデルの立案を手掛けた。「結婚式ビジネスを復活させたい」と言う発注者の要望に応えるためには、要件定義書にどのような条件を盛り込めばよいか。発注者との対話や敷地調査を重ね、伝統的な式の形を継承する施設「儀式殿」(設計:丹青社)を核としつつ、スポーツに注力する神宮外苑エリアと連携して収益を確保するモデルを導いた。

 畑島氏がNADの仕事を選んだのは、「価値ある建築をつくるために発注者のそばに立ちたかった」からだ。背景にあるのは、学生時代に国内外の建築設計事務所でインターンをした経験だ。

 「素晴らしいデザインで予算が収まっているにもかかわらず、建築設計者が発注者に共通の“言語”で意図を伝えられていないために、プロジェクトが白紙に戻る場面に何度も立ち会った。発注者と設計者の理解度の近さが、最終的な建築のクオリティーを高めると感じた」(畑島氏)

 慶応義塾大学大学院でまとめた修士論文では、こうした問題意識をテーマの1つとした。「アオーレ長岡」(設計:隈研吾建築都市設計事務所)や「ふじようちえん」(設計:手塚建築研究所)といった10プロジェクトについて、設計者などにインタビューを実施。その言葉から設計プロセスを図式化し、第三者に共有するすべを探究した。「当時の経験がNADでの仕事に生きている」と畑島氏は話す。