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 幼い頃から飛行機が大好きだった。学生時代には航空宇宙工学を学んだ。SUBARU(スバル)への就職を決めたのは、同社が航空宇宙事業を営んでいるからだ。飛行機の開発や設計をする技術者になりたい。それは金田尭之氏が子どもの頃から抱いてきた夢だった。

金田 尭之(かねだ たかゆき)氏。1996年2月生まれ。2020年4月にSUBARU(スバル)入社、知的財産部に配属(写真:鈴木 愛子)
金田 尭之(かねだ たかゆき)氏。1996年2月生まれ。2020年4月にSUBARU(スバル)入社、知的財産部に配属(写真:鈴木 愛子)
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 2020年4月、新卒でスバルに入社した。ところが金田氏が希望した配属先は知的財産(知財)部。同社が発明した技術の特許出願をサポートする仕事だ。

 技術者になるという夢を諦めたのは、大学院時代の挫折経験からだった。

研究テーマ案に指導教員のゴーサインが出なかった

 学部4年生の春、金田氏は翼の周りの流体現象を調査する研究室に入った。すぐに指導教員から卒業論文の研究テーマが与えられた。「低レイノルズ数流れ」に関連する研究で、ドローンなど低速飛行する航空機の性能向上を目指すものだった。低レイノルズ数流れとは、流体力学で慣性力と粘性力の比を示す「レイノルズ数」の値が小さく、流体の速度が比較的遅い流れを指す。人工的に小規模な空気の流れを発生させる「風洞実験」による空気の可視化などは興味深く、研究に没頭した。

 大学院では卒論よりレベルの高い研究テーマを模索し、指導教員に何度も提案した。だが指導教員が首を縦に振ることはなかった。

 「今思い返すと、私が提案したテーマは新規性も進歩性も欠いていたのがよく分かる」と金田氏は振り返る。研究テーマには、それが新しいものかという新規性や、容易に考え出せるものではないかという進歩性といった観点が求められる。

 金田氏の研究テーマ案からはこれらの観点が抜け落ちていたために指導教員のゴーサインが出なかったのだ。「当時の私はそれに気づけなかった。何を言っても駄目なのではないかと、先生とコミュニケーションを取ることも怖くなった」(金田氏)

 友人は次々とテーマが決まっていった。指導教員に相談しなければならない焦りと、提案が否定される恐怖感との板挟みになった。半年近くたつと、卒業できないのではないかと不安に駆られ、退学という選択肢も脳裏に浮かんだ。

 結局、研究テーマを自力で見つけられず、指導教員から与えられた。これが金田氏にとっての挫折だ。「自分は課題を見つけ出すのが苦手なのだと一気に自信がなくなった。技術者になる夢も諦めた」(金田氏)。技術者は課題探求と解決の繰り返し。そんな日々を想像して耐えられなかったという。