人工知能(AI)やシミュレーションを使った材料開発手法「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」の導入を進めるAGCは、データサイエンス関連の社内研修を充実させてMI人材の内製化を進めている。門屋勇輝氏(28歳)はこの取り組みで頭角を現した若手社員の1人だ。化学畑出身でデータサイエンスも習得した門屋氏は、同社の材料開発に変革をもたらそうとしている。
「MIが普及したからといって、(試行錯誤を繰り返す)泥臭い研究がゼロになるとは思っていないし、ゼロにすべきだとも思ってない。試行錯誤の矛先をより前衛的なテーマに向けるべきだ」。門屋氏はこう力を込める。
大学、大学院で化学を専攻した門屋氏は、卒業後も化学に携わることを望み、2018年にAGCへ入社した。入社後は医薬品や農薬品の研究開発に従事した。
入社2年目の2019年、上司から「データサイエンスのチームに異動してみないか」と声がかかった。門屋氏は異動を受け入れた。何度か社内研修を受けたことがきっかけだ。「材料開発において人間が担える部分は確実に減っていくと思い、以前からデータサイエンスに興味を持っていた。いろいろな技術に触れておいたほうが技術者としての視野も広がる」(門屋氏)と考えた。
2年間で研修や実業務を通じてデータサイエンスに必要な基礎知識を猛勉強した。統計、プログラミング言語、アルゴリズム……。初めて学ぶことばかりだったが、今では材料開発チームが求めるWebアプリケーションを自作できるほどの実力を身に付けた。
それほどまでに門屋氏がMIに熱を入れるのは、化学者がMIを使いこなした先に「化学者の理想郷」があると信じてやまないからだ。