企業の経理業務のデジタル化支援などを手掛けるスタートアップのLayerXで、執行役員兼PrivacyTech事業部長を務める中村龍矢氏(25歳)。個人情報を保護する技術「プライバシーテック」の研究開発チームを率いる。
「睡眠などの生命維持活動を除き、全ての時間を研究に注いでいる」と中村氏は話す。平日はもちろん、休日も技術の動向調査や考察に充てる。「打ち合わせなどがなく、まとまった時間を確保できる」(中村氏)。
研究活動では考察が一番重要という。2022年のゴールデンウイークは毎日12時間を考察に充てた。研究課題の問いを立てたら関連する論文を5~10本ほど読みあさり、仮説を見つけるまで思案を巡らせる。
文字通り研究漬けの日々を過ごし、プライバシーテックの最新の研究を、顧客の課題を解決できる「形」に仕立てることに力を入れる。ブロックチェーン(分散型台帳)のプラットフォームの1つである「Ethereum(イーサリアム)」の考案者、Vitalik Buterin(ビタリック・ブテリン)氏が認めた実績も持つなど、活躍は世界規模に広がる。
解がない最先端の分野、自ら教科書を著す
中村氏が注力するのは、「Anonify(アノニファイ)」と名付けた個人データを安全に活用するためのプライバシー保護技術だ。分析に実用上の影響を及ぼさない範囲で元データを加工し、流出してもプライバシーを損なわない状態をつくり出す「差分プライバシー」など、複数の技術のアルゴリズムを組み合わせている。
プライバシーを保護しつつ保有する個人データを詳しく分析したいといった顧客のニーズに応じて、 Anonifyの要素技術を組み込んだシステムを提供する。中村氏は研究でAnonifyのアルゴリズムを設計するとともに、プロダクトとしての仕様を策定するプロダクトマネジャーも務める。
差分プライバシーをはじめとするプライバシーテックは、米Google(グーグル)や米Apple(アップル)などの巨大IT企業も研究に力を入れる最先端の分野だ。技術解説の論文こそ出ているもののサービスとして提供できる形の解はなく、ゼロから模索しなければならない。自分たちで教科書を著すくらいの気概で考察を重ねた。
2019年に研究開発を始め、茨城県つくば市やあいおいニッセイ同和損害保険などとの実証実験を経ながら、Anonifyの仕様を固めてきた。2022年6月にはAnonifyを活用した個人データの加工サービスを開始した。
味噌汁を飲みながらイーサリアムの脆弱性を発見
生命維持活動以外の全ての時間を研究に注ぐ姿勢は以前から一貫する。2019年8月にはイーサリアムの合意形成の仕組みに違和感を抱き、理由を考え続けていた。